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哀しきCMプランナーの会

【座談会】2022年、CMプランナーたちが目指すもの

CMプランナー 福里真一さんを中心に、第一線で活躍するCMプランナーが集まる「哀しきCMプランナーの会」。3回目の今回はゲストに電通 花田礼さんを迎え8人で4つのテーマについて話し合いました。今年も“哀しき会”、開幕です。

“CMプランナーではない”福部明浩さんのCMのつくり方

福里:2021年もお集まりいただきまして、ありがとうございます。「哀しきCMプランナーの会」も3回目を迎えましたね。この会は、CMや動画制作において決定的な役割を担っているにもかかわらず、職種としてあまり評価されていない哀しみを感じているCMプランナーたちが集まって語り合う場です。今回はゲストとして、ACC賞2021で小田桐昭賞も受賞された注目の若手プランナー 電通の花田礼さんにも来ていただきました。

花田:よろしくお願いします。

福里:今回は4つのテーマで話していきたいと思います。まずは、「“CMプランナーではない”福部明浩さんのCMたち」です。福部さんは、大塚製薬「カロリーメイト」の「見えないものと闘った一年は、見えないものに支えられた一年だと思う。」のテレビCMで、TCC賞とACC賞(テレビCMが対象の「フィルム部門 Aカテゴリー」)、2つのグランプリに輝きました。他にもマクドナルドや「日清のどん兵衛」、キリンビールやクラシエなど、福部さんのCMがこれまで以上に際立っていた1年でしたよね。

ACC賞の審査でご本人は「自分はCMプランナーではなくコピーライターで、アートディレクターと組んで2人で企画することにこだわってきた」とおっしゃっていて。そのあたりも含めてCMプランナーの皆さんは福部さんのCMをどのように見ているのか、聞いてみましょう。

神田:この場を借りて言ってしまうと、僕は福部さんがつくるものに前から嫉妬しています。福部さんはキャッチコピーを絵で描いているというか、絵を含めてストーリーをつくっている印象があって。僕は哀しいことに言葉の力に頼りきってしまうので、福部さんの仕事はコピーライターながら言葉が少なくて、絵の力を信じてつくっているのがすごいなと思います。それにコピー、ビジュアルに、誰にでもわかるキャッチーさがありますよね。ADの榎本(卓朗)さんと組んでいるからこそできることで、僕らCMプランナーが1人で企画を考えるのとは違う感じがしています。

福里:コピーライターというとコトバの人という印象がありますが、むしろCMプランナー以上に絵にこだわっている感じですよね。それをADの榎本さんと組むことで実現している。

神田:以前お2人とご一緒させていただいたことがあったのですが、高校の部室のような雰囲気で、延々とアイデアをぶつけ合いながらつくっていっている様子でした。

福里:TCCの授賞式のスピーチで福部さんがその部屋のことを「精神と時の部屋」と呼んでましたね。

吉兼:僕も以前、FCNT「arrows」のCM「割れない刑事(デカ)」シリーズで榎本さんと仕事をしたことがあるんですが、榎本さんはプレゼンの際のコンテも全部ご自身で描かれるんですね。一方福部さんはTCCのコラムで「コンテを描くことは脳内で編集すること」とおっしゃっていて、お2人は自分たちでストーリーを具現化して、トライ&エラーしているんだろうなと。今までのコピーライターやアートディレクターにはないやり方だと思います。

鈴木:僕も福部さんの取材記事をいろいろと読んでみたら、自分とつくり方が違うところが2つありました。ひとつはお2人の相互作用で、榎本さんは福部さんが良いと思ったものしか絵にしないと決めているそうなんです。プランナーはわりと言葉を絵にすることを簡単にやってしまいますが、お2人はその段階でまずアイデアの選別をされているんだなと。榎本さんが絵にした後は、言葉の専門家の福部さんがジャッジして、相互作用が生まれていく。もうひとつは、ヒアリングです。ご自身が「原点」と話すZ会の仕事では、何をメッセージにするかを事前にヒアリングしたと。

福里:企画をする前にまずいろいろな人の話を聞くらしいですよね。

鈴木:マクドナルドや「カロリーメイト」でも、お客さんや受験生にヒアリングをしたそうです。僕らはストーリーを“つくる”ことに慣れていますが、福部さんならではの“事実からストーリーを紡ぐ”手法が、時につくり話を超える力を持つのかなと思いますね。発想の前段階で汗をかいているので、スタートの段階から違うというか。

福里:うーん、たしかに。事実を入り口として、しかもそこからあまり付け足さないんですよね。我々CMプランナーだと最後に落ちを付けたり、強くしようと考えがちなんですけど、それをあえてやらない。さて、ここまでは博報堂の人たちで、福部さんの後輩として色々気遣いもあったと思いますが(笑)、電通の皆さん、どうですか?ちょっと福部さんの弱点とかも指摘してほしいところですが(笑)。

栗田:企画の純度が高いなぁと感じています。変な添加物が入っていない感じといいますか。ちゃんとしたピースがはまって地に足がついた状態で企画が伸びている感じがして、型としての美しさがある。コピーライターご出身だからでしょうか。僕も同じようにコピーライターからCMプランナーになったので、共感と尊敬があります。まぁ僕がプランナーになった時は「独特な世界観のものがつくりたい」みたいな気持ちがかなり先行してましたけど……。

福里:当時でいうと岡康道さんとかの強い影響ですかね(笑)。

栗田:どうでしょう(笑)。福部さんはそういうつくり方もできる方と思いつつ、純度の高いものをストーリーという形に練り込んでいくのが特に上手な方だなと。

福里:そうなんですよね。コピーライターとADでつくると、今まではストーリーが弱くなるようなイメージもありましたが、きちんと見る人をストーリーで引き込む力を持ち合わせているところに、プランナーとしては「これはちょっとやばいな」と危機感を感じます。

栗田:普通はヒアリングをしてからつくるとドキュメンタリーっぽくなって、あんなに面白くはならないですよね。そこが凄いです。

福里:大石さんは、毎回「モテたい」としかコメントしていない気がしますがどうですか?

大石:今日も皆さんのコメントのレベルの高さに早くも打ちのめされそうですが……。僕は福部さんのCMのつくり方もそうですが、その人間力が凄いと思ってしまいます。作品を見て思うのは、制作スタッフ全員の潜在能力を引き出す力が長けていらっしゃるんだろうなということ。制作に携わる人々を巻き込みながら、大きな輪になっていくのかなと。クライアントも福部さんとつくることが幸せで、売上はもちろん大切だけどそれだけではなさそうな気もしますね。

福里:たしかに「カロリーメイト」もマクドナルドの「ハッピーセット卒業式」なども、売上だけが尺度ではない感じがしますね。

山本:マクドナルドの「恋の三角チョコパイ ティラミス味」のCMは凄くうまいセリフ劇でしたよね。岡康道さんと中島哲也さんがセリフ1行だけを書いてそこからCMをつくっていったという話を思い出して、もしかしたら福部さんは、かつてのCMプランナーの姿を復活させようとしているのかなとも思ったり。

花田:僕は以前、福部さんのCMに憧れて真似しようとしたことがあったんです。あのエモさというか、真摯で温かい空気をまとったものといった表層的な部分だけを見て真似しようとして、結果全く面白くもなく感動もできないものができてしまって。福部さんのつくる絵って、気持ち良いじゃないですか。すっと入ってくるので、僕も含めて憧れる若手は沢山いると思いますが、完成物ではなくヒアリングなどの“制作過程”を参考にしたほうがいいのだと、今日皆さんのお話を聞いていて思いました。

福里:福部さんは、TCCのスピーチで、「物語る力を大事にしている」と言っていました。もしかすると、CMプランナーが頭の中で考える“物語る力”は時代とずれているところもあるよ、と我々につき付けているのかもしれませんね。なかなか、彼の弱点は見い出せそうもありませんね(笑)

大塚製薬「カロリーメイト」のCM「見えないもの」篇。

賛否が分かれた名作 ポカリスエット「でも君が見えた」篇

福里:続いて大塚製薬「ポカリスエット」の「でも君が見えた」篇について。このCMはACCの審査で「これが絶対グランプリ」派と「絶対認めたくない」派で割れまして、結局はシルバー受賞にとどまりました。哀しき会の皆さんはこのCMをどう見ましたか?

花田:僕は率直に好きです。PRの手法もよくて、公開前日に映画評論家などをたくさん巻き込んでCMの試写会を開いて、SNSで拡散して、翌日に公開を迎えて話題になりました。メイキング映像にも「やられた」と思いましたね。最近は海外のAppleのCMなど、メイキングがきっかけで話題になるものも多いので、僕もいつかそういうのをやれたらなと思っていたんです。

栗田:好き嫌いを超えて無視できない凄みを持ったものと思っていたので、ACCの結果にはちょっと驚きました。若い人の広告への興味が減っていると言われ危機感を感じる中で、このCMはクラフトの圧倒的な力で「CMっていいよね」という感情を広告業界の外にまでつくり、興味をぐいっと引き寄せちゃった。すごいなと思っていました。

福里:若い人たちにもウケたのは、どんな部分だったでしょう?

栗田:映像から伝わる熱量ですかね。素晴らしい技術と美術、スタッフのセンスをもって、凄い熱量でつくりあげた映像というのがメイキングからも伝わってくる。若い人が特に反応していて、これをきっかけに広告をやりたいという人が増えるかもしれないという気がする、広告業界全体にとっても良い出来事だったと思います。

山本:たしかに画力と音楽に全フリしている企画でしたよね。ターゲットが中高生なので、今までのCMの話法では通じない前提でつくられていて、世の中的に反響があったので、僕は成功したすごく良いCMだと思います。

鈴木:僕も圧倒されはしましたが、ストーリー自体は大人にはわからない感情なんだろうなとも思いました。「ポカリスエット」の主なターゲットは学生なので、30歳を超えた手練れの制作者たちが置いてけぼりにされて然るべきというか、その層が理解できないほどの局所的なエネルギーを持ったもの。評価できない人たちがいたという結果は、むしろ勲章かなと。幅広い人々にわかるものにはある種、弱さもありますよね。それぐらいピュアに「わかってたまるか」という勢いで若者に思い切り打ち込んできた感じがしました。

大石:僕も好きですね。歌と疾走する少女の絵力にすごく惹き込まれました。あとから知ったのですが、あれは友だちに「一緒に帰ろう」と言うために帰路を逆走する話だそうです。そんな小さなことでも、学生からすると意外とセンシティブで勇気のいることだったりするんですよね。その小さな勇気を表現するために、あそこまで壮大に描いている。一見しただけではそこまではわからなかったですが、映像のゴールが等身大の高校生の共感できるところに向かっているのもグッときた理由なんだろうなと。

福里:なるほど「一緒に帰ろう」と言いに行く話だったのかー!ACCの最大の論点はまさにそこで、何を伝えようとしているのかわからない、という方が多かったんですよ。絵に力があるのはよくわかるけど、「見た人がどういう感情を持てばいいか伝わってこない」という意見の人が半数以上いたんです。私自身は、そこは自分もわからないけど、ビジュアルで勝負している最近少ないCM、という視点で評価すべき、ということで票を入れたんですけどね。

吉兼:なるほど。今回のACCを見ていると、正しいもの、ソーシャルグッドなものが多いと思いました。誰もが共感したり、納得したりするものが票を集めるのは当然なので、わからない要素が入ると、上位に入りにくい部分もあるんですかね。

神田:僕も好きで、演出と企画のバランスを考えさせられました。演出が強くて、メッセージやストーリーが一度で把握しきれなかったんです。わかりやすくつくるべきだと思い込まれていたCMに、そうじゃなくていいという新しい判断をもらった気がします。むしろそこから新しいものが生まれるのかなと感じましたね。

栗田:あれだけ制作費をかけたCMも最近少なかったから斬新に見えたし、音楽も若い世代に響くようにすごく丁寧に選ばれている。もしこのCMをもっとわかりやすくするとしたら、歌詞を「一緒に帰ろうよ」とかにしてテーマを歌い込むのかなと思いますが、それをしたら失われる感じもあって。わかりやすくしすぎない浮遊感も含めて、若い人に「ポカリは自分たちの味方」と感じさせられたと思うので、目的を達成しているCMだと思います。

大塚製薬「ポカリスエット」のCM「でも君が見えた」篇。

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