戦略と表現が一体となった、師匠のコピー
たまに見る悪夢がある。雑巾を絞るように書き抜いた渾身のコピーの束をおそるおそる差し出すと、上から3枚だけ見てもらえたあと、「この中には、ない。」と、残りの束ごとゴミ箱に投げ捨てられる夢だ。
TOTO/1991年
〇C/小川英紀
BIG JOHN/1981年
〇C/仲畑貴志
TOTO/1992年
〇C/仲畑貴志
言葉の組み立て、コピーとビジュアルとの距離感など、ありとあらゆる表現手法を『仲畑広告大仕事』(講談社)という、サイズも中身もごっつい一冊から学んだ。今でもこの本を開くと若手と呼ばれていた頃の楽しさや不甲斐なさが蘇ってくる。名作揃いの中からチョイスするのは至難の業だが、教科書として今も大切にしているこの本から選んでみたい。
「便器は、じっとしていない。」。時代の先頭を走る企業または商品であることを伝えたいときに「先進」や「進化」といった言葉を使わず、その企業ならではの言葉でいかに伝えるかを考える。その時に必ず脳内をウロチョロするのがこのコピーだ。「さぁ、コピーライターとしての、腕の見せどころだぞ」と今も発破をかけてくれる、ぼくにとっては有難いコピーなのである。
「見知らぬ男に出会っても、過去を尋ねてはならない。」。