ここだけの「時間を処方する」ホテル
2021年10月1日、金沢市の香林坊にブティックホテル「香林居」がオープンした。エントランスに大型の蒸溜器が置かれた、ホテルらしからぬ構えが特徴的。このプロジェクトのプロデュースをはじめ、コンセプトやロゴ、空間デザインなどクリエイティブ面をリードしたのはサン・アドだ。建設中にコロナ禍を経験したホテルが打ち出す、“今の人々にフィット”した価値とは。
体験価値と安心・安全を両立 新しい空間デザイン
炭火焼ハンバーグと炊きたてご飯の専門店「挽肉と米」が人気を博している。コロナ禍の2020年6月に吉祥寺店を、21年3月に2店目として渋谷店をオープン。空間全体でハンバーグとご飯のシズル感を体現しているかのような店舗設計について話を聞いた。
2021年3月にオープンした「挽肉と米」渋谷店の店内。
「挽肉と米」吉祥寺店と渋谷店それぞれの店舗空間に共通するのは、焼き場を囲むように半円形に並ぶ大胆な客席の配置、焼き場の上の巨大なダクト、そしてもうもうと湯気をはきだす羽釜。店舗全体からできたてのハンバーグとご飯のうまみがあふれ出ているかのようだ。
主なメニューは、ハンバーグ(3個まで同価格)と炊きたてご飯、味噌汁、生たまごから成る「挽肉と米定食」(1500円)。オプションやドリンクメニューもあるが、メインはこの定食だ。来店客が食券を買い席に着くと、各席に備え付けられた焼き網の上に、焼きたてのハンバーグがのせられる。同じく各席に置かれた6種のソースから自由に味をつけて食べる、という流れだ。ハンバーグは複数注文した場合も、焼きたてのタイミングでひとつずつ提供する。
利用するには、朝9時から店舗で「昼の部(ランチ帯)」「夜の部(ディナー帯)」に記帳(=予約)をし、その時間に再度来店する必要がある。特に土日は9時を過ぎてすぐに「昼の部」の予約が埋まってしまうことも多い。
「挽肉と米」はもともと友人同士だった、POOLの代表 小西利行さん、飲食店の経営に明るいLAMP 代表 清宮としゆきさん、「山本のハンバーグ」を展開する俺カンパニー 代表 山本昇平さんらによって立ち上げられた。店舗設計は、飲食店のデザインをメインとする上野建築研究所 上野幹恭さんが、吉祥寺店・渋谷店ともに手がけている。
もとをたどれば、山本さんの「挽肉は世界を制する」という熱い思いから始まったプロジェクト。世界中で食べられている挽肉、それもハンバーグでこそ世界で戦える──という持論を、小西さんと清宮さんに話していた。最初は面白い話として聞いていた2人だが、話し込むなかで「焼きたてのハンバーグを炊きたてのご飯の上にのせて食べるのが一番うまい」と勢いづく。各分野のプロフェッショナルが集まれば話は早い。そのできたてのおいしい瞬間だけを提供するお店のコンセプトとして小西さんが打ち立てたのが「挽きたて、焼きたて、炊きたて」だった。
渋谷店は道玄坂近くの繁華街の3階にひっそりとたたずむ。入り口には「1129(いい肉)」とだけ記載。
ハンバーグは目の前で焼かれ、一人ひとつ用意された網の上に「焼きたて」で提供される。
2020年6月にオープンした吉祥寺店の店内。
天井に抜ける巨大なダクトと4台用意した羽釡が「挽きたて、焼きたて、炊きたて」のシズル感を演出する。
冒頭の空間デザインは、この「挽きたて、焼きたて、炊きたて」というコンセプトに忠実につくられた。
上野さんは、「この3つをどのお客さんにも等しく体感してもらうために、焼き場の周りに半円形に客席が並ぶ今の形になりました。通常の飲食店の店舗設計では回転をよくするために...