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2021→2022 広告とクリエイターの新たな役割を考える

東京2020の「大会ルック」制作の裏側

東京2020大会ルック

2021年の大きなトピックと言えば、1年延期ののちに開催された東京2020。大会の顔となるクリエイティブはどのように生み出されていったのか。大会ルックを手がけたデザインチームが一連のプロジェクトを振り返る。

東京2020の大会ルックは、「重ねの色目」と大会ロゴやエンブレム、ピクトグラム、現代絵画や日本の漫画、オノマトペなどとを組み合わせ、各会場に展開された。

「重ねの色目」が意味するもの

2021年7月23日から8月8日に開催されたオリンピック、同8月24日から9月5日に開催されたパラリンピック。無観客での開催となったが、テレビやスマートフォンの画面越しに各国の選手たちが競い合う熱い姿が放映された。大会期間中、画面に映る選手たちの背景──競技場やスタジアムの外壁や内部、観客席、選手入場口、選手村、会場に着くまでの街中、日本の玄関口となった空港──に張り巡らされていた、赤・青・紫・緑・桃を基調とした東京2020オリジナルのグラフィック。これらは総じて「Look of the Games」(=大会ルック)と呼ばれ、各大会を印象付ける“顔”となるデザインを指す。

大会ルックは競技アイテムやメダルのリボン、チケット、「東京2020公式アプリ」のインターフェース、オフィシャルグッズなどさまざまに展開されたが、その全ては基本要素である「コアグラフィックス」を元につくられた。

コアグラフィックスを制作し、数万点にものぼる各展開に合わせて納品するという途方もない作業をやり遂げたのは、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)のデザインディレクター 沢田耕一さん率いるチーム。遡ること2016年、リオ五輪の閉会式の頃には、すでに企画が始まっていた。

「デザインディレクターとしてアサインされ、改めて大会ルックが広範囲に関わってくることを知りました。IOCからは広告の仕事のような細かなオリエンはなく、私たちの自主性に任されました。そのため大会ルックというのはどういう手順でつくるものなのか、過去の大会の要素を分析していくところから始めたんです」(沢田さん)。

2012年のロンドン大会、2016年のリオ大会の大会ルックを分析すると、前者は紫色「ロイヤルパープル」を第一色とし、後者は自然豊かな色、緑色が第一色となっていた。どちらもその国や開催都市を表現していると感じたという。

「では日本らしい色はなんだろう?と考えました。まず浮かんだのは日の丸の赤。色彩の専門家に聞くと『赤を選んだこと自体はあながち間違っていない。でももう少し濃い、“紅”という色がふさわしいのでは』と。というのも、平安時代に日本独自の貴族文化が発達し、貴族の女性たちが日本らしい美意識を磨いた時期があったそうで。それが体現されたのが十二単。多様な色の中でも、紅花で何度も染めることで黄味が落ちて濃い赤になる紅という色を当時の特権階級の女性は重宝したそうです」と沢田さんは説明する。

もうひとつは、野老朝雄さんがデザインしたエンブレムの「組市松紋」にも用いられた藍色だ。こちらは紅とは反対に庶民の色として古くから親しまれており、明治のはじめに日本を訪れた外国人が、日本の人々が藍染の着物を着ているのを見て「ジャパンブルー」と名付けたほど。藍色の一種である「褐色(かちいろ)」は、縁起の良い「勝ち色」として鎌倉時代の武将に好まれた色でもある。

そうしてメインの2色が定まったが、「全会場に2色だけでグラフィックを展開するのでは手狭になってしまう」と考え、日本の伝統色として藤、松葉、桜を足して、計5色を基本のカラーに据え置いた。「さらに、十二単の特徴である『重ねの色目』というものを採用しました。諸説ありますが、衣を6枚ほど重ねて美しさを表現したものに倣っています。同系色の6色を用意しました」(沢田さん)。

競技の備品や選手の入場口、記者会見の会場のデザイン展開も担当。

空港や街中でも大会ルックを展開。

会場や選手村内の案内板も大会ルックの「重ねの色目」に基づいて制作。

足し算で生まれたデザインシステム

同系色の6色からどのように...

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