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2021→2022 広告とクリエイターの新たな役割を考える

【座談会】2022年の広告を占う9つのキーワード

浅井雅也、船木研、眞鍋亮平

先行きの見えないコロナ禍の対応に追われた2020年、2021年を経て、広告はどこへ向かうのだろうか。クリエイターでありながら、組織を率いて未来の広告ビジネスを構想する3人──浅井雅也さん、船木研さん、眞鍋亮平さんが考える、広告のいまとこれからとは。

「継続するライブアド」の時代に

眞鍋:今日は「2022年の広告・コミュニケーションがどのような方向に向かっていくか」というテーマで、それぞれが3つのキーワードを持ち寄りました。1つ目に僕が挙げたのは、「継続するライブアド」です。

中山淳雄さんの書籍『オタク経済圏創世記』(日経BP)で、今の時代はアニメやゲーム、アイドルやスポーツなど経済圏をつくれているもの全てが「ライブコンテンツ」になっているとされていて。ひとつのコンテンツが数週間・数カ月単位で数珠つなぎに次々とアップデートされていき、ユーザーの需要に応えた物語を提供し続けている──コンテンツ自体が静的なパッケージじゃなくて動的なサービスになって、コンテンツが生きている状態という意味だそうです。だから継続的に物語に関連した新しい商品が展開できて、そのファン同士のコミュニティで喜びや消費の仕方も共有し合えるという流れが生まれています。

KEY WORD 01

継続するライブアド

船木:確かにそうなっていますね。

眞鍋:「ライブアド」としたのは、これはコンテンツだけの話ではなくて、ゼスプリの「キウイブラザーズ」のように広告自体もそうなっていくと感じていて。6年前からデジタルCDとして担当してきたポカリスエットの広告でも、それを意識してきたように思います。

船木:わかります。今までの広告は納品して終了という感じでしたけど、今は納品してから始まる、といった感覚ですよね。

眞鍋:そうですよね。かつてのCMプランナーの感覚だと、広告というのは打ち上げ花火を上げる感覚で、一発花火を上げたらひと区切りついた。だから手離れも良かったんですけど。

船木:今は狩猟型じゃなくて農耕型に。

眞鍋:そうそう、耕してるんです(笑)。だから手離れは悪くなるけど、日々の細かい手入れとか、季節の移り変わりに応じて育んでいくという感覚に近いですよね。

浅井:働き方も変わってきますよね。単発でチームを組んで解散ではなく、一定の期間を通してブランドを見ながら、商品展開も確認して、世の中の動きから機会を探して、という感じで。クライアントに“ベタ付き”で併走しているからこそ自主的に提案できる機会も増えるので、チーム体制やメンバーも影響されると思います。

船木:たしかに。その関連で言うと、僕は1つ目のキーワードとして「広告ビジネスの関係は共創へ」と挙げました。「農耕型」じゃないですけど、広告ビジネスの関係が受発注ではなくなる感じがしているんです。大きく分けてクライアント、メディア、エージェンシーという受発注の関係がありますけど、だんだんとシームレスになってくるのではないかと。

たとえばクライアントとメディアとエージェンシーが一緒に定例会をしながら、新しいカルチャーや価値を生み、利益を山分けとか。業績が厳しいメディアも、エージェンシーで困っていることも、うまくパズルがはまり楽しくなるのではないかと。「ライブアド」もきっとそういうことですよね。

KEY WORD 02

広告ビジネスの関係は共創へ

眞鍋さんがデジタルCDを担当している大塚製薬「ポカリスエット」の広告。画像は2020年に公開された「ポカリNEO合唱」。

パーパスがメインになると反動で注目されるのは?

浅井:僕の1つ目のキーワードは「社会性/人間性」です。今年実施されたカンヌライオンズのデザイン部門においてH&Mの「Looop」や「NOTPLA」がグランプリを受賞しましたが、“社会にどのようなインパクトを与えるブランドになるか”は大きいテーマだと思っています。「人間性」というのは、そのブランドがどういうキャラクターで、どのようなブランドボイスを発しているのか、明確にするのが大切だなと。もちろんそれは時間がかかることなので、先ほど「農耕型」とあったようにパートナーシップを組んでブランドを常に考えていく必要があると思っています。

今年の5月にDroga5 Tokyoを立ち上げたことで、日本企業のブランドについて考える機会が増えましたね。ブランドづくりのその先で、どういう方向でこの国が進むお手伝いができるのかな、と。

KEY WORD 03

社会性/人間性

眞鍋:僕もそれ、大切だと思います。その観点で言うと、ここ2年のアテント(大王製紙)は素晴らしいですよね。去年、「大人用紙おむつ」というネガティブにも感じられたものを「かくさないパンツ」とポジティブに話せるものに変えるという宣言をしていました。その1年後の今年、ユーザーと一緒につくった「かくさないパッケージ」の商品を発売して。

しかもパッケージやWebサイトもアートディレクションが行き渡っているんです。これを手がけた細川美和子CDは社会課題とブランドを掛け合わせた「ブランドミッション」という言い方をしていたんですが、今の日本で「社会性/人間性」を共存させた事例はこれかなと思いましたね。

船木:なるほど。

眞鍋:それに関連して僕の2つ目のキーワードは「本業のアクションへ繋げる」です。アテントが素晴らしいと思ったのは、宣言の1年後にプロダクトとして、本業のアクションに繋げたこと。本業にアクションを繋げないと、SDGsウォッシュのようにただ言っているだけになってしまいますし、それに消費者は敏感な時代ですよね。

KEY WORD 04

本業のアクションへ繋げる

浅井:たしかに。僕らも世の中に本質的な議論を生み出すことを重視しています。一瞬のスパイクを生み出すことよりは、モヤモヤでもいいので長い時間、誰かの頭の中に残ってその人の中で議論を生み出せるような話題のつくり方のほうに注目しています。だから仕事の中でも、自分たちの存在意義が何なのかということを定義していくことに重きを置いています。

眞鍋:その存在意義に即した話題というか、残し方をデザインするということですよね。

浅井:そうですね。自分たちのブランドが、なぜその人たちにとって大事なのかを話題にしたいというか。もしそれが伝わった上で要らないと言われるなら、それでもいいと思うんです。消費者の性質も当たり前に多様化する中で、無理してみんなに良い顔をしても仕方がないので。

船木:僕も近いことをメモしていて。以前は「話題にする」「バズらせる」というと、無理くりパワーを投入して……みたいな印象もありましたが、今はできるだけ本質をむき出しにして、それが情報の渦になれるのかどうかを見極める、というのが近いんじゃないかな。渦に何か集まってきそうだったら、さらに投資して台風のようにもっと大きくしていく──という感じで。あまりおいしくなかったら、無理しておいしい!って打ち出さなくてもいいと思うし、クリエイターも一緒に渦の種みたいなものを探していく方が燃えると思うんですよね。眞鍋さんはこの領域、専門だと思いますが、どうですか?

眞鍋:一過性の話題、たとえばバズムービーみたいなものがいかにブランドに寄与しないか、もうみんな気付いちゃったんですよね。やっぱり継続性があり、ブランドの器に貯まっていく話題じゃないと意味ないよねって。本質的なブランドのパーパスや、そこに根ざした話題じゃないと意味がなくて、そこの器に蓄積していく話題を積み重ねていくことが大事という意味でも、ライブアドの話にも通じてくるんですよ。本質的なコアは何か、そこからブレたバズをいくら起こしてもしょうがない。

船木:やっぱり、そうですよね。

眞鍋:ただ、みんながそこをやると、いわゆるソーシャルグッド的な話に寄っていき、“良いことをやる競争”になってしまうんですよね。そればかりが溢れるようになっても、息苦しい時代になるかなと。そのときに、楽しさや新しさ、面白さを追求し続けている、日清食品のようなライブアドが際立ってくるのかなと。3つ目に挙げた「(反動としての)脱力系」はこのことで、みんながパーパス型に行ったときに、カウンターとしての脱力系をひた走ってきた日清食品、強いなと。今後はその2軸に可能性があると思います。

KEY WORD 05

(反動としての)脱力系

浅井:たしかに、海外では特にブランドがスタンスを表明するのが当たり前になってきましたが、やっぱり人間なので、真面目な優等生でばかりいるのは疲れちゃうんですよね。ちょっと気を抜いたようなユーモアのあるコミュニケーションは、ほっこり安心します。ニューヨークの Droga5はニューヨーク・タイムズなどエティックで真面目なものが多い印象ですが、ロンドンのDroga5が手がけたダイエットコークのムービー「Just Because」は、“ただとにかくダイエットコークが飲みたいだけ”な人々を描いたもので(笑)。両軸が...

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