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広告少年

アートディレクションってなんだろう?

小杉幸一、吉田ユニ、松田翔太、吉兼啓介

これまでは主にテレビCMについて思考を巡らせてきた「広告少年」。今回はアートディレクターの小杉幸一さん、吉田ユニさんに、その仕事のし方や考え方について根掘り葉掘り聞いてみます。

「コミュニケーションは人格だ」

吉兼:改めてお2人は、どういう経緯でアートディレクターになられたんですか?

小杉:僕は吉兼くんと同じ博報堂の出身で、2年前に独立してonehappyという会社を立ち上げました。実は(吉田)ユニちゃんとは同い年で、社会人1年目ぐらいから仲良くしています。

吉田:私は大学卒業後に大貫デザインに入社しました。ポートフォリオを送ったら「ちょうど社員を募集しようとしていた」と言われ、面接や試験を受けて入社し、その後宇宙カントリーを経て独立しました。

松田:僕は以前からデザインを仕事にしている方に興味があって。たとえばテレビCMではセリフや演出の効果にプラスして、最終的に映像に文字が入ることで印象が変わりますよね。そういうデザインの一つひとつがどんな風に生み出されているのか気になっていたんです。自分でもフォントとかデザインとかの本や、この前は矢印だけを集めた本なんかも買いました。

一同:(笑)。

小杉:すごいマニアック(笑)。

松田:パーティー会場の喫煙所やトイレの案内表示をつくってみたこともあります(笑)。まずはフォントについて、お2人はこういうときにはこういうフォントを使う、といった具体的な棲み分けをしているんですか?

小杉:僕はコミュニケーションをデザインするときに、Aという企業はこういう人格だな、という風に、その対象を「人格」としてとらえて考えるようにしています。大好きなアートディレクターの葛西薫さんは、「書体は声」とおっしゃっていますが、僕は「人格」だと解釈していて。たとえば「おい、小池!」というコピーで有名な徳島県警の指名手配のポスターがありますが、その文字が優しい書体で小さいサイズだったら、誰にも聞こえないですよね。あれは警察が怒っているという人格で、野太い声で誰にでも聞こえるようにデザインされていると思うんです。

そんな風にコミュニケーションデザインを人格としてとらえると書体はすごく使いやすくなります。僕が新人の頃は、「優しい」「怖い」というタイトルのフォルダをつくって、そこに書体を振り分けて管理していました。

松田:なるほど!感覚で書体を引き出せるように。でも好きな人格というか、いつも必ず使ってしまう書体はありませんか?

小杉:ありますよ。ユニちゃんも自分でつくったり、こだわりがありそうだけど。

吉田:うん、好きなのはあるけど、自分でつくることが多いですね。好きな書体でも「この文字だけは嫌い」ということもあったりして(笑)。

松田:わかる。僕が昔買った本のタイトルのフォントが好きで、それをもとにAからZまでのフォントをつくってみたんです。それがすごくクラシックで、かっこよくなったんだけど、どうしてもSの文字だけがうまくいかなくて気になってしまっていたことがあります。

吉田:そうなんですよね。あとはたとえば「S」だけが嫌いなら、別の書体で近いものに換えたり、ちょっと変形させたり。だからすごく細かい文章でも気になっちゃって、結局全部少しずつ変えたりとか……。

松田:そうなると、街中で目にする文字たちも気になりますか?

吉田:気になるといえば気になりますね。あとは美容院で雑誌を渡されると、文字とか写真が気になって仕事モードになっちゃうので、あまり見ないようにしています。

一同:(笑)。

吉兼:さっき小杉さんがおっしゃっていた書体の人格化というのは、その企業の人格をしっかりつかんでから、トーン&マナーに落とし込んでいくということですよね?

小杉:そうですね。広告はチームで制作するものなので、最初は言葉で人格を共有し、書体や色で客観視しながら認識を一致させていく感じです。でもよくあるんですが、絵とコピーの人格がバラバラだと気持ち悪いんですよね。デザインがバーンと強いのにコピーが句読点で終わったりしていると、もっと強く言いきってよ、と(笑)。

吉兼:なるほど(笑)。ではブランドの人格というのとは逆に、ご自身の作風を入れるのも意識していますか?

吉田:私は意外と意識したことなくて。だから「この広告ユニちゃんっぽいね」と言われると「あれ?バレちゃったんだ……」と思います。

吉兼:作風は強くなくてもいい、と。

吉田:「自分」が前面に出てしまうと、あまり意味がない気がしていて。やっぱり広告なので、クライアントが求めているものとそのお客さんが求めているものの良いバランスでつくるというのを大事にしています。でもまず興味を持ってもらうためにどういうビジュアルがいいだろう、と考えていく中で、自然と自分っぽさが出てしまっているような気がします。

小杉:逆に僕はアウトプットに「自分」が無いのでは?と悩んだ時期がありました。でもたとえば俳優さんだと、同じセリフでも誰が言うかで全く違うものになる。セリフにどう向き合って、どう解釈をするか、というプロセスこそ個性なんじゃないかって気付いて。それはデザインでも同じで、プロセス次第で自ずとアウトプットに変化が出るよなぁと思えるようになりました。

吉兼:既にその境地に達しているのがすごいです(笑)。

小杉:(笑)。でもユニちゃんは、考えるプロセス自体も本当にユニークで。子どもの頃にスイカをつくった話をしてもいいですか?普通の子どもって、工作でスイカをつくるとしても、新聞を丸めてそこに緑と黒のテープを貼って、くらいで終わるじゃないですか。でもユニちゃんは、それをビニール袋に入れてさらにリアリティを追求していたそうです(笑)。

吉田:そのままだと工作のスイカでしかなくて、ビニールから透けてる感じが本物のスイカに見えるのが良いなと思って。それを持って近所を歩いてました(笑)。

松田:「みんな私がスイカ持ってると思ってるんだろな」っていう気持ちだったんでしょうね(笑)。それはある意味広告ですよね。人にどう見えているかまで既に考えていたんですね。

「違和感」で釘付けにする

松田:通常の...

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