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TOP INTERVIEW

経営視点でデザインするブランドと社会の関係

上野金太郎(メルセデス・ベンツ日本 代表取締役社長兼CEO)

ブランド情報発信拠点「Mercedes me」開設から10年。メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は、EV(電気自動車)移行やMaaS(モビリティ革命)が進む中、未来に向けて、ブランドと社会の関係をいかにデザインしていこうと考えているのか。

日本発のアイデアが海外市場に展開

──2011年7月、東京・六本木に“クルマを売らない”ショウルームとして「メルセデス・ベンツコネクション(現:Mercedes me)」をオープンさせ、10年が経ちました。この間、国内輸入車のブランド別販売台数で6年連続1位という結果にも繋がっています。

実は20年近く前から“クルマを売らないショールーム”のアイデアを温めていました。メルセデス・ベンツは以前から近寄りがたいブランドというイメージがあり、その上、高価格帯の商品のため購入者も限定的。もっとメルセデスの魅力を日本でアピールしていかなければ──。そう考える中で「いかにお客さまに自分たちと関係のあるブランドだと思ってもらえるか」を課題と捉え、新規事業の立ち上げに関わっていた20代後半から30代前半にかけ、アイデア実現に向け何度もトライしたものです。

ようやくアイデアが具体化したのが、前社長のもとで副社長を務めた時でした。当時はドイツ本社に経営を集中させるセントラリゼーションから、各国に最適化されたマーケティングを進めようという機運が高まっていた時期。前社長も日本に着任してからまだ日が浅く、副社長であり営業・マーケティングのトップだった私のアイデアを尊重してくれました。

ところが、「ブランドの入り口をつくりたい」という思いからスタートさせた、“クルマを売らない”ショウルームというコンセプトに対し、ドイツ本社から「売らなかったら経費も払えないだろう」と反対を受けました。喧々諤々の議論を交わしながら、最後は六本木の候補地が18カ月間空くこともあり、「費用を超える効果が望まれるから」と、成功しても失敗しても18カ月限定という条件でオープンにこぎつけることができました。

今ではオープンから10年ほどが経ち、移転や名称変更を経て常設に。多くの新しい顧客層とのお付き合いが生まれました。日本から生まれたこのMercedes meは現在、六本木、大阪、品川プリンス、羽田エアポートの国内4店舗を運営し、海外では中国の成都、深圳、上海、オーストラリアのメルボルンと、4店舗を展開しています。

Mercedes meは全国で200を超える販売店とは異なるテイストで展開しているため、ほかにも新しい取り組みにトライし続けています。2019年に六本木、2021年には羽田にて、“伝説の立ち食いそば”こと「港屋」とのコラボレーションにより「日本一行列のできる立ち食いそば」ともいわれた人気店のそばを、展示車のすぐ近くで味わうことができるようになりました。

また、店内で販売しているオリジナルアイテムのラインアップ数は600種類以上。いずれも、「陸・海・空」の頂点に立つことを意味するメルセデスのスリーポインテッド・スターがデザインされています。最近では、車内のカップホルダーにも収まる「Hydro Flask」ブランドとコラボレーションしたステンレスボトルが好評です。併設するレストランやカフェにふらりと立ち寄ったお客さまが記念に購入されることも多く、今ではこれらのアイテムも私どものブランディングにおいて重要になっています。

当社は自動車自体の直営販売を行っていないので、レストランやカフェ、アイテム販売を通して、お客さまとブランドの接点を広げることで、メルセデス・ベンツをより身近に感じていただけるよう、活動を続けているとも言えます。もちろん一方で、コロナ禍にある現在は、より広いお客さまにブランドが浸透するように顧客接点のデジタル化も推進しています。

「Mercedes me」は日本のほか、中国3店舗(成都・深圳・上海)、オーストラリア1店舗(メルボルン)で展開(写真は成都)。

ブランドと遊び心が調和した広告

──『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行さんとのアニメ制作をはじめ、『ドラえもん』『進撃の巨人』など人気コンテンツとのコラボを軸としたプロモーションも毎回、話題を集めています。

かつてのメルセデス・ベンツの広告といえば、重厚な暗めの映像の中で...

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