2021年度TCC賞 受賞者リスト
グランプリ
大塚製薬/カロリーメイト/TVCM他「見えないものと闘った1年は、見えないものに支えられた1年だと思う。」
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TCC賞
大王製紙/アテント/TVCM他「誰よりいちばん近くにいて、誰よりいちばんいつも一緒で、誰よりいちばん長く過ごして、自分の人生に最後まで寄り添ってくれる存在って、何だと思います?もっといいパンツになる。」
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サントリー/BOSS/TVCM「ただ、この惑星の住人は宇宙人のアドバイスなどなくても、やるときは、やる。」
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そごう・西武/企業/ポスター他「レシートは、希望のリストになった。」
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ACジャパン・日本動物愛護協会/支援キャンペーン/TVCM他「『親切な人に、見つけてもらってね。』優しそうに聞こえても、これは犯罪者のセリフです。」
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ヤマトグループ/企業/TVCM「未来より先に動け。」
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大塚製薬/ポカリスエット/TVCM「渇きを力に変えてゆく。」
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大日本除虫菊/ゴキブリムエンダー/新聞「もう どう広告したらいいのかわからないので。」
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ストライプインターナショナル/earth music&ecology/ポスター他「そっとただいま、服と私と社会。」
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サントリー/翠/TVCM他「それはまだ、流行っていない。」
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パナソニック/企業(音響システム)/ラジオCM「今日は、ノー残業デーです。いつもママがお世話になっております。」
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THE FIRST TAKE/YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」/WebMovie他「THE FIRST TAKE」
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Netflix/Netflix/新聞他「再生のはじまり」
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オンワードホールディングス/ONWARD CROSSET/TVCM「今、私たちは試着室の中にいる。スポットライトはない。」
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大日本除虫菊/虫コナーズ/TVCM「この世界には、虫コナーズと、虫コナーズやない“虫コナーズ的”なもんがあんねん。」
審査委員長 児島令子
2021も審査はオールリモート。けど、孤独だけど孤独じゃない。『ここは年にいちど、みんなのコピー観を交換する場所。』審査サイトのトップページにそうメッセージした。審査委員たちは制作者のいろんなコピー観を受信し、投票という形で自らのコピー観を表明した。それがTCC審査であり、その結果がコピー年鑑。年鑑を開く人もまた、自分と照らしあわせコピー観を豊かにしていくだろう。このサイクルにこそ、TCC審査会という私たちの一大イベントの意味があると思う。
最終日にはZoomで集まり、「全員ひと言タイム!」を設けた。議論無し多数決が慣習だったTCCに、今年はライブな声が飛び交った。まさにコピー観を交換しつつ最終投票へ。票はけっこうばらけた。それはマイナスなことでなく、この時代、答えはいくつもあるという答えだろう。コロナ関係は多かった。が、ただコロナに乗っかったのはスルーされ、コロナをどう捉えたか?独自性、深度、文脈の光るものが評価され、カロリーメイトはその頂点に立った。
思ってもいなかった1年に生まれた言葉たちを前に、明日へ向かうコピーを探していった審査会。思ってもいなかったは、思っているを生んだ気がする。
麻生哲朗
あらゆるメディアが語り報道する中で、分際を意識し「広告では語らない」ことも1つの態度だったと思うし、平時のベンチマークとして「朗らかに振る舞い続ける」ことも大事な態度だったと思う。賞審査という場所で、それらを相対的に検証することはかなわない。「なんとか前向きに語る」というほぼ共通のベクトルの中で「語った広告」「語れた広告」を比較することは難しかった。
THE FIRST TAKEは、その状況の中で具体的アクションを起こしたコンテンツの価値はもちろんだが、ネーミング、デザインに広告制作者の技術が果たした役割は大きいと思った。FIRST TAKEの価値はそれがLAST TAKEでもあることにある。「時は戻らない」「一度きりのそのままをよしとする」「それでも生きる」ことをエンターテインメントとして鮮やかに昇華させていて、評価のレイヤーが一枚違うと個人的には思ったし、広告制作者の可能性を示してもらった気がした。
安藤隆
酒の広告の受賞が少なくなった。もともと酒の広告にドキドキして広告に興味をもった世代として変化を実感する。そんな時代の変わり目を背景に新しい社会(SDGs、CSR、LGBT…)を謳う広告が多くなった。点を入れないと、新しい社会を否定しているようで戸惑う。非常に良いことを言っているけど、この会社や団体はなんだろうとネットで調べながらも多くなった。良いことを言うとかえって怪しまれる時代でもあるのか。
疑心暗鬼が広がると、ちゃんとした広告に対しても「舌触りがよくてなんか嫌だな」警戒心が及ぶという現象がでた。手だれ感のない、お金のかかってなさそうな広告に素戻りしてしまう気配もでた。
磯島拓矢
コロナ禍であることを前提に、何とかポジティブなメッセージを送ろうとするコピーが数多くあり、世の中の変化に食らいつくその姿勢に大いに共感しました。あたりまえですが、広告というのは、そこでもがくしかありませんから。そんな中でも、世の中の変化をとらえながら、変わらないことは何かを問い続けたコピーが強かったように思います。変わること、変わらないことの確認と検証。これはあと数年続きそうな気がします。どうなんでしょう。
一倉宏
全体にコロナの影響は言うまでもないのだが、その中でもグランプリは、いちばんリアルで誠実に見えて、しかも美しくさえあった。TCC賞の中では、厳しい状況下にある業界のもの、そごう・西武、オンワードなどのメッセージに心が動いた。こんな時にコピーになにができるか、悩み考えた私たちにとって、励ましになる仕事と思う。
その他、ヤマトのとても正攻法な企業広告など、トーンもマナーも優しく人柄のよいものが多いのも今年の特徴と言えそうだ。TCC賞全体として、ある意味「大人しく」見えるのもコロナの結果かもしれない。それとは反対に、新人賞は活きがよく多様性も感じられ、頼もしい限りだ。例えば、デカビタの盛り恋ムービー、在宅の審査で初めて見たのだが、繰り返し何度も見て笑った。
井村光明
社会問題など大きなテーマを意識した作品が増えていますが、やはり広告が魅力的に見えるのは、そのブランドがそのメッセージを発信することに必然性を感じ納得する時ではないでしょうか。ともすると世の中の正論をただ商品に貼り付けただけに見えるのです。商品を描くからこそ生まれる、正論とは違う言葉。広告の面白さはそこにあると再認識させられました。
受賞作の「そごう・西武」には必然性があった。「ゴキブリムエンダー」にはコロナに対してもブレない金鳥の人格に納得感があった。そしてグランプリのカロリーメイトは、変わらず受験生にフォーカスしているのに、他のどれよりもこの時代に響く言葉になっていました。言葉がすぐ炎上する時代に、商品よりも世の中を語ろうとして、広告が少し優等生になってるんじゃないかなあ。
岩田純平
今年のTCC賞は票が割れました。ということもあり票を入れたもので受賞したのは4つだけでした。どれに入れたかは年鑑でご確認いただくとして、TCC賞に入らなかったものでは「話そう。」「墾田永年私財法」「ガツン、とみかん」「ピルクル」「ハッピーセット卒業式」「象印姉妹」「今西」「告白の返事の前にオロナミンCを渡すラジオ」などが好きでした。「年賀状」や「貯杉数子」は最終に群で残ってなくて残念。
新人賞は「匂わせエスニック」「カロリーメイトの部活ムービー」「コンドームバトラー」「神戸市消防局」が特に好きでした。TCCグランプリの「カロリーメイト」はリアルタイムで見た時に「ああ、もう今年はこれだな」と脱力に近いくらい清々しく打ちのめされたのを覚えています。僕の中では圧倒的にグランプリでした。
太田恵美
2020年と2021年。個人的には昨年2020の方が多感だった。それでも、今年気になって仕方がなかったことばを探していった。「ひとりで生きていく、なんて、言わないでほしい。」「未来より先に動け。」「そっとただいま」「試着室」「すぐ出家する」「ヒトも植物も、この土に生まれた。」まだまだある。「ちょいマック」はマック史に残るネーミングだと勝手に再確認した、店頭でその名を口にしている大人を想像できないとしても。
一方、私の最高新人賞は、最初から「服の概念がない下谷さん」。でも、まさかね。が、本当になった。もしやこの高評価はコロナ禍と関係があるのかも、と仮説を立てて考えると、なかなか興味深い。
尾形真理子
グランプリのコピーは、この1年のわたしたちのタイトルにできたらと思うような、観る者の気持ちを救いあげるようなメッセージでした。コロナ禍でコピーを書く難しさがあったように、審査もまた、とても難しかったです。社会の劇的な変化の前に、コピーの役割はどう変化するのだろうか、個々の見解にはどんな意味を見出せるのだろうか。その答えは個々が出すしかないと知りつつも、ひとり頭を抱えるばかりでした。
最終審査を終えて、どんなに特別な年と言われても、心を奪われるコピーは、人々の感情を交流させ文脈を共有する。それだけは変わらないのだと思えた年でもありました。
岡本欣也
審査バイアスというものがある。それはケレン味の強いものを無意識のうちに選んでしまう傾向のことだ。だから私はオンエアで見て、いいと思ったものをぜったいに忘れずに審査に反映したいと思った。ステイホームのリビングで私が唸ったのは、カロリーメイトとゼスプリキウイのCMだった、前者はこの期間のこの世界を静かに前向きに総括してくれた。ど真ん中とは、このことだ。後者は受賞には至らなかったが、上質なユーモアで世の中を明るくしてくれた。
この功績は、もっと評価されるべきだと思う。などと言いつつ新人賞は、いとも簡単に前言を翻す。デカビタC ゼリーのやりすぎの目ん玉がいちばんすごいと思ったし、いちばん好きだった。でもこれはコンセプトもちゃんとしてるので、ぜひ動画で見てほしい。
小川祐人
色々なことがあった年でした。ただ自戒を込めて言えば、そういう時ほど逆説的に、世の中の文体が似通ってくるように思います。言葉の“new normal”というものへの流れがあるとするなら、僕らはそういうものに対し自覚的に抗い続けなければいけない、と思いました。
受賞作の中では、THE FIRST TAKEとアテントが好きでした。前者は、みんなが遊びたくなる求心力として機能しているところ。もっと言えば、言葉に「身体性」があるところ。後者は、情緒でごまかさず、価値の転倒を純に企てているところ。やさしい顔つきをして、鋭い「パンク性」があるところ。自分のこれからの仕事に役立てたいと思いました。勉強になる機会をありがとうございました。
河西智彦
コロナという社会共通の状況があったため、コロナ広告同士の「差」が...