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広告少年

「演者」と「企画者」、かく語りき

松田翔太、吉兼啓介

少年のように広告を愛してやまない2人が広告について探求する連載「広告少年」。第3回の今回は、「演者」松田翔太と「企画者」吉兼啓介が互いの仕事について真正面から掘り下げます。

どこまで設定を固めるか

吉兼:今回はいくつか話したいテーマを持ってきました。「企画者が演者に求めること」と「演者が企画者に求めること」から話していきましょうか。

松田:まずは企画者が僕ら演者に求めることから聞いてみたいです。

吉兼:僕は企画する時に当て書きをするんです。それは俳優によって適した台詞が変わると思っているからなんですけど。その人だったらなんて言うかな?と想像して書いてはいるんですが、現場ではそのイメージを超えてくれる人がいいなと思っていて。「ああ、こんな台詞が現場で生まれるんだ」っていう、良い意味での事故性、伸びしろみたいなものに期待していますね。

松田:事故性ね。わかります。

吉兼:以前、翔太さんがマンダム「ギャツビー」の「オサレ星人」のCMで、自分で語尾を考えて変えてみた、っていう話があったじゃないですか(『ブレーン』7月号「広告少年」Vol.1参照)。ああいうのがうらやましいなって。完璧な企画というより、撮影現場や編集段階で伸びしろがある企画をつくるよう心がけています。そこに演者のパワーが加わってハチャメチャにしてほしい。

松田:CMプラナーの立場ではあるけど、いつも決め打ちでいきたいわけではないんだ。

吉兼:そうですね。企画としては決めているんですが、同時にクライアントには「もっと面白くしたい、だから現場で変わるかもしれない」というのは伝えておきます。

松田:じゃあ演者に絵コンテを渡しつつも、他のプランでも演じてみてほしいという気持ちもあるんですね。逆に台本通りに演じるっていうのは、吉兼くんからすると不正解ってこと?

吉兼:僕にとってはそうですね。時間が許せば色々なパターンをやりたくて。とはいえ制作者のタイプもさまざまなので、「一言一句この通りで!」というスタンスの人もいると思います。

松田:たしかに。

吉兼:よく漫画家の先生が「描いているうちに登場人物が勝手に動き出す」とか言うじゃないですか。あの感覚に近いです。ある程度キャラクターの設定を決めたら、あとは動き出してくれるのが理想ですね。そのキャラクターから出てきた言葉であれば、別に何を言っても良いっていう。

松田:じゃあそのつくったキャラクターのバックボーンとか、コンテでは表現しないことも実はなんとなく考えているんだ。

吉兼:そうですね。「日清これ絶対うまいやつ!」のテレビCM「麺恋歌」篇でもそういうことをしていて。

松田:あ、見たことある(笑)。あれ吉兼くんだったんだ。

吉兼:そうなんです(笑)。国道沿いのラーメン店の前で、マイルドヤンキーの男たちが「家のラーメンは味が薄い、濃いラーメンが食べたい」って歌うんです。20人くらいいるキャラも、実は全員細かく設定をつくっていて。主人公は前田太造。「前田太尊」(漫画『ろくでなしBLUES』に登場するキャラクター)から命名しています。ボクシングをやってたけどラーメンが食べられなくなっちゃうからボクシングをやめた、とか細かい設定があります(笑)。

松田:いいですね(笑)。

吉兼:で、現場でもその人の役名で呼ぶんですよ。CMには役名は一切登場しないんですけどね。

松田:いや、そういうのめちゃくちゃ大事です。演じる側も助かるというか。

吉兼:役名で呼ぶと、エキストラの方であってもただのエキストラではなくなるから、きっと演じるモチベーションも上がるし。しかも設定があるので、現場で勝手に仲良くなれるんです。

松田:それは結構、演者が企画者に求めることのひとつだと思います。設定があった方が、やっぱりやりやすい。僕はそれ、ファッションの撮影でも実は欲しくて。その洋服を着た時に、寒い環境なのか暖かい環境にいるかでポーズも変わってくる。できる限り何か他の要素やシチュエーションもイメージしながら撮影した方が、最終的にかっこいいものに仕上がる感じがしますね。

吉兼:現場によって、進め方もさまざまですよね。これまで印象に残っている仕事はありますか?

松田:映像監督の竹内スグルさんとキリン「氷結ストロング」やパナソニック「レッツノート」のCMをつくったことがあるんですけど。竹内さんの現場はまたちょっと違う面白さがあって。常に本当のことが起きているというか。物理的に体が動いた時に出てくる表現、自然と浮き出てくる言葉を映していて。そういう環境をつくろうとする監督のときは、逆に何も情報を入れないで、その状況に没入した方が、いい表情や表現が出てくるっていうこともあります。

吉兼:ああ、なるほど。

松田:もちろんどこかにゴールがあるんですけどね。「氷結ストロング」に関しては、15センチくらいの深さの水が張られているところを、ただひたすら僕がスライディングしていくっていう撮影でした。それを繰り返していると自然な、二度とできない水しぶきが起きるんですよね。

吉兼:挑戦的な撮り方ですよね。

松田:「レッツノート」の時は、タイに行って、3日間くらいいろんなところで撮影をしました。それも、ただ僕が走るっていうだけ。でも演者にとっては頭でっかちにならないで済むし、自分のポテンシャルの探求にも役立つような演出でした。と同時に、すごく怖いんですけどね。監督に試されているというか、こちらの胸の内を見透かされているんじゃないか、という気もするし。

吉兼:竹内さんはきっと、「箱」だけ用意して、すごくリアルなものを撮ろうとしているのかなと思います。僕も用意するものは違えど、そのスタイルに近いのかもしれないです。設定という箱の上で、踊ろうが寝ようが、箱の淵に立とうが、それはむしろ僕的には嬉しいというか。

松田:うん。でも圧倒的に、商品やサービスなりをPRしなければいけないっていうのはあるわけでしょ?

吉兼:それはもちろん(笑)。広告は...

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