「JINS」が前橋市でベーカリーカフェを開いたというニュースを耳にした。その名も「エブリパン」。普段使いする言葉でないのに口ずさみやすい。ロゴもさっぱりと潔く、おいしそうな空気をまとっている。プロジェクトを手がけた菊地敦己さんの話を聞きに行った。
売り方まで視野に入れた独自価値
最初に菊地さんにインタビューしたのは、もう随分と前のこと。お会いするまで少し気難しい方ではと思っていたのだが、良い意味で裏切られた。視野が広く視点は鋭い。やわらかい毒舌?が本質を突いていておもしろい。この日も、最近、叩かれがちのファッション業界について聞いてみた。
「ラグジュアリーブランドとファストファッションの二極化が進み、その狭間に存在していた企業の価値が問われるのでは」とバッサリ。百貨店や大手セレクトショップ、アパレル企業の不振ぶりがよく俎上に上がる。が、これは今に始まったことではなく、コロナ以前からあった課題であり、対策を講じていたり、新しい道を拓こうとしたりする動きもある。「ラグジュアリーとファストファッションの狭間には、いろいろと新しい可能性があって、おもしろいブランドが出てくるのでは」という菊地さんの話にも希望が湧く。
一方で、「コムデギャルソン」や「ミナペルホネン」など、セールをしない、シーズンを超えて売るといった、「売り方まで視野に入れた独自価値」を追求しているブランドは揺らがずに存在し続けると菊地さん。これはすなわち、つくるところから売るところまでを視野に入れ、その総体をデザインすることに他ならない。しかもアパレルだけでなく、他の領域でも通用することだ。菊地さんは、そこまでを射程範囲に入れながらプロジェクトを手がけていると思いいたった。
ジンズの新事業としてのパン屋
「エブリパン」プロジェクトは、ジンズの新事業の可能性を探るという課題のもと、3年ほど前にスタートしたという。ジンズの20周年を節目ととらえ、創業の地である群馬県前橋市に「ジンズ パーク」をつくる。地域コミュニティのハブとなるようなその施設の一画で、新事業の第1号店を展開すると決まっていた。「メガネありきで、そのオプションとなる業態でなく、自立できる新規ブランドをつくることを目標にしました」と菊地さん。
なぜパン屋だったのか──「誰もが訪れやすく、人の流れが常時生まれるような店がいいと考え...