クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、菓子作家の土谷未央さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『眼の冒険 デザインの道具箱』
松田行正(著)
(紀伊國屋書店)
石とラムネが似ている、硝子と糖菓が似ている。そんな風に「似ている」を探しながら暮らしている。そして、「似ている」は、私の製菓においての骨子でもある。
私が「似ている」物集めを始めたのは、松田行正さんに出会ってからだ。建築を学んでいた学生時代、卒業後の道に悩んでいたとき本書に出会い、本には建築的魅力があると知った。「建築と本は似ている」という気づきに助けられ本の装丁などをする職に就いていた頃もある。
眼を細めて物を見ると、特徴が際立ち、物と物との似ている点が浮上する。似ていることを軸に思考を始めると、関係ないと思える物同士も共振すると気づき、新しいアイデアを発見する手がかりにもなる。深く追っていくと、人類の文明や文化、科学や物理の世界にも「似ている」は必要不可欠な視点であると知り、私の視野はそれまでとは比べ物にならないほどに大きく開けたのだった。
特に、本書にも収録されている映画『スーパーマンⅢ 電子の要塞』のオープニングのフローチャートとの出会いは大きい。ハリウッドの大作を敬遠し、単館系作品ばかりをより好んで観る若造だった私に、視点を変えればどんな映画作品も楽しめると教えてくれた。