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創刊60周年記念企画 青山デザイン会議2021

より本質的なクリエイティビティが求められる時代へ。

レイ・イナモト、清水幹太、武重浩介

この約1年半は、クリエイティビティの在り方を、価値を、問われ続ける期間だった。本誌の最も近しいところ、日本の広告においては、表現の変化に始まり、働き方や組織の変化が起こり、その価値や役割についての議論が続けられている。一方、海外ではどうだろう。日本の数年先を行くと言われている欧米のクリエイティビティにおいては、どのような変化が生じているのだろうか。

今回は、アメリカ・ニューヨークより、I&CO 創業パートナー レイ・イナモトさん、BASSDRUM 清水幹太さん、イギリスより、電通マクギャリー・ボウエン武重浩介さんによる座談会を実施。クリエイティブの今、そして未来について議論が交わされた。

コロナ禍とクリエイティブ

レイ:話を始める前に、まず“クリエイティブとは何か”ということの目線を合わせましょうか。個人的には、クリエイティブ、もしくはクリエイティビティの定義は「今までなかったことを考える」「その考えたものを形にする」「形にしたものを企業もしくはブランドを告知したり、ブランドの価値を上げたりすることに貢献しうるものにする」──この3つが今回のテーマにも沿うクリエイティブなのかなと思うんですけど、皆さんはどうでしょうか?

清水:「今までなかったものをつくる」という面では、おっしゃる通りだと思います。

武重:僕も「ないものをつくる」という点に100%同意です。あとは「整理されていないものを構築し直す」という面もあると思っています。今回日本に一時帰国して感じたのが、たとえば入国の手続きひとつをとっても、似たような書類をたくさん提出して、3、4時間ぐらいかかるんです。情報とデザインの整理ができていれば、極論をいえば15分ぐらいでできるものだよなと。今ある雑多な情報や考え方を構築し直して、より住みやすい世界をつくることが、クリエイティビティで貢献できることのひとつなのかなと個人的には感じますね。

清水:私もそれは感じていて、0から1を生み出すということではなく、すでにあるものをより良くしていくという部分──これは後の話につながっていくんですけど、そういう仕事が実際にこの1年ですごく増えたんですよね。コンテンツではなく、仕組みをつくる仕事の比重が大きくなった時に、クリエイティブの必要性をすごく実感しました。

レイ:コロナ禍で感じた広告表現の変化でいうならば、アメリカでは昨年の3月~6月ぐらいにかけて、同じようなメッセージで、同じような映像、音楽で「みんな頑張りましょう」というメッセージを打ち出す企業が多かったんですよね。

一方で、本当の意味でのクリエイティビティを発揮した会社も、そこそこあったと思います。これは日本の事例ですが、海外用Wi-Fiレンタルサービスの「イモトのWiFi」を展開しているエクスコムグローバルという会社が、コロナ禍で売上が98%も減ったものの、そこで新しくPCR検査サービスの事業に乗り出したという話を聞きました。事業自体を転換したり、新しいことを始めたり。そういうものも、今までになかったクリエイティビティだと感じました。

武重:僕はイギリスにいましたが、ヨーロッパでもレイさんが先ほどおっしゃった通りの状況でした。たとえばある自動車会社がコロナ禍で最初に映像をつくったら、競合のメッセージも追随して結果的に皆同じような広告になった。あまりに多くの方が亡くなっているような深刻な状況なので、各社も独自性やインパクトのあるメッセージを発信しづらかったのだと思います。一方でイギリス政府が外出禁止を呼びかけるキャンペーンを実施していて。ジョンソン首相の記者会見のマイクの下に、人々の行動変容の喚起を促すスローガンを掲出していたんです。

「Stay at Home, Protect the NHS, Save Lives<家にいよう、NHS(国営の医療サービス)を守ろう、命を救おう>」というメッセージで、デジタルメディアでも屋外でもテレビでも、フォーマットを統一してアイコン化していました。あれはシンプルなものですがコロナ禍においてクリエイティビティをどう活かすかの好事例だと思います。皆が不安や混乱に陥っている際には、状況をわかりやすく整理して、指し示すようなものが必要です。僕はそのひとつに広告クリエイティブの力を活かせるのだと、可能性を感じ元気づけられましたね。

エージェンシービジネスへの危機感

清水:私はこの3人の中ではデジタル寄りだと思いますが、その立ち位置から言うと、この1年はものすごくやりがいのある年でしたね。私たちデジタル屋にとって、まだ存在しない仕組みをつくる仕事は本丸になるんです。一般的にエッセンシャル・ビジネスというと、医療や食料品だったりするわけですが、たとえばエンターテインメントの領域で新しい配信の仕組みをつくる際に、私たちを必要としてくれる人たちがたくさんいるわけで。

そういう意味で、デジタルの仕組みづくりもエッセンシャル・ビジネスになってきたのをすごく感じましたし、今までにない仕組みにコミットするような仕事がすごく多くなった印象です。いわゆるDXという言葉が聞かれるようになりましたけど、まさに企業が持っている仕組みに対して、私たちがテクニカルな視点や、知見を注入していく機会が増えました。レイさんはコロナ禍で、どんな変化を感じていました?

レイ:DXに関して僕の身近なところでいうと、Eコマースの改修や、オンラインのビジネスをどうやって軌道に乗せるか、という依頼が増えましたね。もうひとつは、今までDtoCではなかったブランドがDtoC化するという動き。その一方でオンラインだけでは限界があるということに、皆さんが気付き始めてもいて。コロナ禍はオンラインを伸ばすチャンスではありましたが、完全にオンライン化できないという現実に直面している企業も多かったんじゃないかな。

あと大きな変化として、従来の広告・マーケティングビジネスの衰退が加速しているのも感じます。アメリカではコロナ禍でショッピングモールがどんどん衰退し、老舗のリテール企業も倒産しているんですね。一方で、Amazonの存在感がさらに大きくなっている。同じようなことが広告・マーケティングビジネスにおいても起きていて、いわゆる広告会社の存在感が薄れ、反対にGoogleやFacebookなどが牛耳るオンライン広告の存在感が増しているように感じています。

清水:私もレイさんと同じくニューヨークに住んでいますが、特にクリエイティブエージェンシーの存在感が、どんどんなくなってきている感じがしますね。

レイ:カンヌライオンズなどの業界のお祭りが軒並み中止になったじゃないですか。そういう要因もあって、全世界で元気がなくなっているのを感じます。昨年の11月頃に、LinkedInというビジネスSNSを見たところ、UI/UXのデザイナーの求人数が400~500件ほどあったんですね。それに比べて広告をつくるアートディレクター、コピーライターの求人はその10%もなくて。そういった端々から、変化を感じています。

武重:僕もその点は実感していますね。クリエイティブエージェンシーの存在感の低下、ビジネスにおける危機感はヨーロッパでもあって、短期的にいうとコロナ禍での広告費の削減によって、多くのエージェンシーで大量解雇が起きていました。ですから、エージェンシービジネスのもろさや危うさを、ものすごく実感した期間でもありましたね。

清水:先ほどの話で、UI/UXの求人が増えているというのがありましたが、実際にそういう話ができるプレーヤーをクライアント側が求めていると感じます。これは別にWebに限ったことではなくて、自分たちが自動車の会社だったら、車をいかに売るかの具体案を持って来るようなコンサルタントが求められている、ということです。実際アメリカでいうと、クリエイティブエージェンシーの領域がうまくいかなくなっている代わりに、コンサルティング機能を持ち始めたプロダクションカンパニーが存在感を出してきていますね。

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