IDEA AND CREATIVITY
クリエイティブの専門メディア

           

WORKERS

グレートジャーニー&グレートエスケープのすすめ 東畑幸多×澤田智洋

東畑幸多、澤田智洋

これまでクリエイターの変化するワークスタイルやオフィスを紹介してきた連載「WORKERS」。今号から、働き方について考えるシリーズ(不定期)が始まります。第1回では、東畑幸多さんと澤田智洋さんが広告クリエイターとしての生き方を語ります。

弱さのカードが働き方のヒントに

澤田:今回僕が東畑さんとお話ししたいと思ったのは、昨春、電通の新入社員に向けて「今後、広告の未来には“小さなリーダー”が必要だ」という話をされたと聞いて、感銘を受けたのがきっかけでした。

東畑:電通にはいろいろな人がいたことを伝えたいと思って、ディズニーランドを日本に誘致した小谷正一さん、堀貞一郎さんという2人の伝説的なプロデューサーについて書かれた『「エンタメ」の夜明け』(講談社)をそこで紹介しました。これを読むと、もともと電通は各個人が興味をもっていることを仕事にしていくカルチャーのある会社だったんだと気づきます。

そして、僕が一番伝えたかったのは、それぞれが大切に思うことを仕事にして、“小さいリーダー”になっていくことが必要だということ。ちょうどその頃に「世界ゆるスポーツ協会」などの取り組みをしている澤田くんと出会って、まさに小さなリーダーだなと。

澤田:ありがとうございます。僕は2004年に入社して、東畑さんをはじめ、広告界のスターといわれる方に憧れて、必死にコピーや企画を頑張っていたんです。でも、25歳頃に同じ土俵では逆立ちしても敵わないと気づき、どうやって広告界で生きていこうかと考えていて。そこで、隅っこで、当時はフリーペーパーだったリクルートの『R25』で「キメゾー」という漫画を連載したり、天丼チェーンの「てんや」が新商品を出すたびに新曲を出す「エビメタ・バンド」をつくったりしていました。

でも、会社では「ドカーンとしたキャンペーンをやれ」と言われ、褒められないんですね。だから、今回僕の活動を東畑さんに評価していただいて嬉しかったです。僕の人生のリーダーは僕自身。どう働くかはどう生きるかに直結すると思うから、自分が好きなように頑張りたいと思っています。

東畑:「生きると働く」の話でいうと、この前、澤田くんが話していた、障害の世界の中の「医学モデル」と「社会モデル」の話が勉強になりました。障害があったときに、その人に問題があると考えるか、社会の側に問題があると考えるか、という視点があると。僕は働き方も今後そうなっていくと感じていて、今までは会社に対して自分をアジャストできることが優秀とされたけど、これからは自分の生き方に対して仕事や会社をアジャストしていくというか。

澤田:広告会社の人は「広告力を自分に活かす」と豊かに生きられると思います。僕の場合は、息子が目の見えない障害を持って生まれて困っていたんですけれど、そのときにふと「困っているということは、僕はクライアントだ」と気づいたんです。あとクリエイティブな仕事をしているはずなのに、僕の働き方が全然クリエイティブじゃなかった。

だったら自分がCDになって、自分の働き方をクリエイションし提案しようと、自分に向けて企画書を書きました。これからは強者ではなく、マイノリティに寄り添った「マイノリティデザイン」をしようと決めました。僕が広告で培った力やクリエイティブ力を、くるっと自分に向けてみたら、働き方が激変しました。

東畑:昨年電通社内で、新たな働き方の制度が発表されたときに、「自分の人生は自分で考えないといけない」という当たり前のことにこの歳になって気づかされました。そこで今までスターといわれてきたクリエイターのことをふと振り返ってみると、皆さん自分で自分の土俵をつくっていました。秋山晶さんは秋山さんという土俵をつくって、その上でコピーを書いているし、山崎隆明さんや澤本嘉光さんも全員ルールが違う。その人なりの土俵があるからこそ署名性のある仕事になるんだと思います。

澤田:自分の土俵を探すときには、教育改革実践家の藤原和博さんの「100人に1人が持つ強みを3つそろえて、掛け合わせると100万分の1の人材になれる」という言葉がヒントになるかもしれません。ただ、その100万分の1を探すのが難しいし、人と被るんですよね。たとえば僕には「企画ができる」「コピーが書ける」「CMプランニングができる」という3つの能力があるけれど、これは広告会社の中では“普通中の普通”。だから、働き方にオリジナリティやクリエイティビティが出ません。

そこで僕は3枚目に「スポーツが苦手」という“弱さカード”を入れてみたんです。そうして生まれたのが、スポーツ弱者を世界からなくす「ゆるスポーツ」でした。弱さカードが入ると、そこから新しい可能性が見えてくるんです。みんな、弱さカードを捨てちゃうんですけれど、僕は大事にしようかなと。3月に出した『マイノリティデザイン』(ライツ社)にもそんなことを書きました。

東畑:面白いですね。僕の場合は、コピーが書けないことからのエスケープの歴史だったんです。TCC新人賞を...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

WORKERS の記事一覧

グレートジャーニー&グレートエスケープのすすめ 東畑幸多×澤田智洋(この記事です)
remoteWORKERS クリエイターのリモートワークアンケート Vol.9
remoteWORKERS クリエイターのリモートワークアンケート Vol.8
remoteWORKERS クリエイターのリモートワークアンケート Vol.7

おすすめの連載

特集・連載一覧をみる
ブレーンTopへ戻る