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ユーザーの心を動かす D2Cブランドのデザイン戦略

海外D2Cブランドから見えるエージェンシーとクリエイターの役割

廣田周作(Henge CEO)

海外で先行し、既にアメリカでは飽和状態ともいわれるD2C市場。これまでの成功例から、D2Cに関わるエージェンシーやクリエイターに求められる役割が見えてくる。海外D2Cを含むブランド開発に詳しい廣田周作さんが解説する。

米国D2C市場は「難しい分野」に

アメリカのD2Cのマーケットサイズは、ブームが始まった2010年代から引き続き2021年の現在も上昇傾向にある(図1)。一方で、それぞれのブランドの立場から考えると、ブームが起こり始めた2010年代(アイウェアブランド「Warby Parker」の設立が2010年。その出身者がスーツケースブランド「AWAY」を創業したのが2015年)に比べて、現在はさまざまな業界から、多様なプレイヤーがD2Cの形態でビジネスを展開している。特に米国において、これから新たにD2Cを始めるにしては、既に参入障壁が高い状況になっている現状があるといわれている。

図1/アメリカにおけるD2CのEコマース市場規模と成長率(予測)(2017-2021年)

出所/eMarketer(2020年3月)

実際、グレート・オークス・ベンチャー・キャピタル パートナーのヘンリー・マクナマラ氏は、2019年時点でデジタルマーケティングの業界メディア「DIGIDAY」による取材に対して「D2Cの市場は既に多数のプレイヤーでひしめきあい、飽和状態にある」と指摘している。また同氏は、「今ある全てのネットのブランドをD2Cと呼ぶのには無理があるし、トレンドとしては“時代遅れ”である」と述べている。

D2Cの本来の性格は、広告費やリテールの運営コストを下げる代わりに、商品の原価率を上げ、ネットを使って質の良いものを直接顧客に届けることにある。だとするならば、現在の多くのブランドは、確かにネット通販という形態はとっているかもしれないが、原価率の高い、質の良いものを提供できているかといえば疑問もある。

ブームの裏で、ブランドがユーザーに対して信頼を獲得しづらくなっており、過当競争に陥っているのも現状だといえる。プロモーションの手法も、デジタル広告とインフルエンサーマーケティング一辺倒になってきており差別化が難しい。また、広告獲得単価自体も上昇している中で、ブランドにとってはとても難しい状況になってきている。

いずれにしても、現在の海外(特にアメリカ)におけるD2C市場は、既にある程度成功者が大きな存在感を持っており、新規参入者にとっては「難しい分野」になってしまっているという前提を踏まえた方がいい場所になっている。この10年を俯瞰してみれば、最初のブームが去った現在、成功しているブランドは目立つが、一方で失敗したブランドも多数あるのが現状である。

成功しているブランドの類似性

先述した通り、D2Cの市場においては、既に成功している一部のメガ・ブランドが大きな存在感を持っているが、それらの成功ブランドを並べてみると、ある傾向性が見えてくる。スーツケースブランドの「AWAY」、マットレスブランド「Casper」(2014年設立)、シューズブランド「All-birds」(同)、パーソナルケアブランド「hims & hers」(2017年設立)など、日本でも有名なブランドがあるが、メジャーなブランドのランディングページを比較すると、まずデザインの類似性に気が付く。

いずれもジェンダーニュートラルなトーンで、色はパステルカラー調、文字のフォントはセリフ文字、写真はスペースを多く使っているなどの共通点がある。いわゆる“D2Cっぽさ”は、これらの成功しているブランドのランディングページのデザイン・トーンの類似性にあるともいえるだろう。

なぜこうした類似性があるかといえば、この10年を振り返れば、ブランド側の戦略も洗練されてきた結果、デザインも淘汰され、似たようなトーンが残った(A/BテストなどのPDCAの結果、最適解が導き出された)ということかもしれない。一方で視点を変えると、ブランドに並走する形で、戦略立案からプロモーションまでを担うエージェント側にも切磋琢磨があり、成功のノウハウが積み重ねられてきた結果、こうした似たような、成功のルールが定着してきた可能性が挙げられる。

スーツケースブランド「AWAY」(2015年設立)。

出所/https://www.awaytravel.com/

パーソナルケアブランド「hims & hers」(2017年設立)。

出所/https://www.forhims.com/

D2Cに強いエージェンシーの存在

実際、いま例に挙げた「Casper」や「AWAY」は、いずれも、D2Cに特化したクリエイティブエージェンシーのRed Antlerが戦略やデザイン、プロモーション戦略を担っている...

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