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ユーザーの心を動かす D2Cブランドのデザイン戦略

仕掛人が考える「D2C」の現在地─木本梨絵・小林百絵・古谷知華

木本梨絵、小林百絵、古谷知華

「D2Cブランド」が次々と登場する中、実際の担い手であるクリエイターたちは、その定義や位置づけをどう見ているのだろうか。D2Cブランドのコンサルティングを多数手がける、HARKEN 代表 木本梨絵さん、DAYLILY CEO 小林百絵さん、「ともコーラ」のプロデューサー 古谷知華さんの3人に話を聞いた。

「D2C」がブランドを考え直すきっかけに

古谷:「D2C」というワードが徐々に浸透してきていますよね。数年前まで、新商品の情報発信は大企業によるものが中心でしたが、今は小さなブランドによる商品広告がSNS上で日々配信されています。たとえば化粧品においても、以前は主に化粧品会社や技術保持者だけがつくっていましたが、OEMで製造委託することで、いわば誰でも商品をつくることができる。そうなると、ブランディングが物を言う時代ですよね。

木本:Shopifyなどを用いたオンライン通販は増えた感覚はあるけれど、本質的な「D2C」の定義が曖昧ですよね。私が定義するD2Cは、「心理的なコネクトをしているブランドである」ということです。「商品つくりました。ネットに売ってます。卸はなく直販オンリーです」ということがD2Cの特徴ではありません。たとえば、コミュニティがつくられていたり、継続的にブランドの発信がされていたり。

もしくは創業者の思いへの共感を通じて商品が買われていたり。またジュースのブランドなのに暮らし全体のことを発信しているなど、包括的な価値観や思想をきちんと発信して、それに消費者が共感して購入する、心理的なつながりがあるものがD2Cの一番本質的な特徴だと考えています。今はまだ、そこまでちゃんとやりきれているブランドは日本では少ないと思います。

小林:D2Cブランドと言われるものは日本でも一昨年あたりから増えてきましたが、ビジネス手法としてあまりにも擦られすぎていて、本来のD2Cの在り方がどんどんわかりづらくなっているのかもしれません。特に最近はそういったブランドが一気に増えた感覚があり、「D2Cブランド」として一括りにされることに少し抵抗があります。

古谷:たとえば、ニューヨーク発のコスメブランド「Glossier」はD2Cブランドとして有名ですが、「D2Cをやろう」という起点から生まれたのではなく、消費者の意見を聞きたいからブログを書くし、画像情報だけでなくもっと細やかに情報を広げたいからPodcastをするし……というように想いありきで、その伝達のため適切な手段を広げていった結果、マルチメディア展開になったようです。D2Cブランドづくりが目的になって、そのためにわざわざ発信することをつくるのは順番が逆だなと思います。

木本:クライアントワークをしていると、確かにそういう依頼は多いですね。私の場合は大手企業からの依頼も多く、「D2Cをやりたいんです」という感じだと危険だなと思っていて。そうではなく、本質的なコミュニケーションを重ねた結果、「外からはD2Cと言われているけど、私たちは普通にブランドをつくっているだけ……」という状態のほうが適切だと思いますね。

古谷:5年ほど前の「IoT」ブームに似ている気がして。勤め先にIoTの依頼がたくさん来た時代があったんです。でも「その先で何をしたくてIoTなんですか?」と疑問に思うことがよくありました。

木本:“マジックワード”ですよね。かつてのIoTがそうだったように、今も「D2Cをやります」と言ったら上司の許可が下りやすい、わかりやすい便利なワードとして出回っている節もある気がします。私は仕事をお受けする時、「D2Cといっても、実際どんなことをやらなければいけないか」を話すようにしていますが、はじめはもちろん理解が浅い方もいて。そんな時は、やるべきことを一覧で説明するようにしています。

ただ、その項目は「日々想いを発信する」「ちゃんとお客さまの意見を聞く」など、よく考えれば根源的なブランド価値をつくることにつながる当たり前のことで。それを地道にやることがD2C=ブランディングである、という話を通して初めて理解が深まって、ではやりましょう、と。なので今は、「D2C」自体は、本質的かつ継続的なブランドをつくる方法を話し合うためのきっかけの言葉でしかないのかなという感じで見ています。

古谷:そういう意味では「D2C」というワードをプロフィールに入れることで仕事が来やすくなるという説もきっとありますよね。良くも悪くも、象徴的な記号になってると言えるかも。

小林:たしかに、ブランドのつくり方を考え直すきっかけになった言葉ではありますよね。

消費者との接点はどのように設計する?

古谷:私が2018年夏に立ち上げたD2Cブランド「ともコーラ」は、“知らないことを教えてくれる面白い近所のおばさん”のような存在になりたいと常々思ってます。私はハーブの自主研究をしていて、それを伝えるメディアとしてコーラを捉えています。「ともコーラのSNSやコラムを見ると、見知らぬ野草や薬草山の歴史に触れることができて面白い!」と思ってもらえればいい。買ってもらうことは副次的です。

木本:そのメディアの一部として、パッケージはどういう風にとらえている?

古谷:パッケージには、実は紆余曲折がありました。当初、趣味的につくっていたコーラを急遽商品化することとなったため、名前も1日で考えて、パッケージも仮で、自分でつくりました。そこから、さまざまな人の意見を聞いて徐々にブラッシュアップしていって。最終的にデザイナーに頼み、2020年夏にリニューアルした、という感じですね。町場のブランディングじゃないですけど、さまざまな人の声を取り入れるスタイルは大事にしています。

木本:皆の意見を取り入れているからこそ、醸し出される親近感がありますよね。

古谷:デザイナーとは、“道の駅に置いてあったら一番おしゃれなデザイン”くらいに、と話しています(笑)。猛烈におしゃれ過ぎず、エッジを利かせすぎない。広く馴染んでもらえるような町場のブランディングだと考えています。

木本:“道の駅になじむデザイン”、面白いね(笑)。

小林:いい話ですね。私が2018年に立ち上げた、アジアの女性のための漢方ブランド「DAYLILY」では、漢方というトラディショナルなものを、どう現代に適応させていくか、あるべき形をつくっていくか、というところは当初から考えていました。台湾の漢方の在り方って、女性の生活の中でのお守りのような存在で。漢方薬としてだけではなく、さまざまな形で漢方を日常的に取り入れているんです。DAYLILYのデザインも生活の中のお守りになるような、手に取っただけでエンパワーできるものにしたいなというのはずっと思っています。

古谷:コミュニケーションはどのように考えていますか?

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