「がんばる母さんやめました」自分らしさを探る「卒母」の考え方
『卒母のためにやってみた50のこと』(大和書房)という本に出会い、ページを繰り出したら止まらない。手書きの文字とイラストで構成されているたたずまいもユニーク――著者でありグラフィックデザイナーの田中千絵さんに話を聞いた。
デザインプロジェクトの現在
北海道の「petit-hotel #MELON 富良野」を皮切りに、京都や大阪の「HOTEL SHE」などをプロデュースしてきた龍崎翔子さんは、明快なコンセプトを立てて独自の魅力を生み出してきた。大学時代に起業してまだ25歳、豊かな発想のあれこれを聞いた。
龍崎さんは、かねてから工業製品のように均質なホテルが多いと感じていて、その土地ならではの空気を活かし、旅の高揚感を引き立てるようなホテルをつくりたいと起業した。最初に手がけたのは「petit-hotel #MELON 富良野」。お母さんを代表取締役として、19歳にしてL&Gグローバルビジネスを興した。
その後、手がけたホテルの数々が、ユニークな企画を発信して人を集めてきた。たとえば「HOTEL SHE, OSAKA」では、「アナログカルチャーの入り口をつくる」というテーマのもと、全客室にレコードプレイヤーを置いて聴けるようにした。「人は異質なものと出会う体験をおもしろいと感じるし、それによってライフスタイルが広がるのでは」という発想がその裏にある。自身がレコードプレイヤーをプレゼントされ、聴いたらハマったという体験から、ホテルは「ライフスタイルを試着できる場」ととらえた。
自分とは別のライフスタイルを体験できるのは、ホテルか友だちの家など数少ない。だから「過ごし方を定義することが大事」と考えてのことだ。
人は「思いがけない出会い」におもしろさを感じるもの。旅に出るのは、そこに発見があり、知らないことを知って刺激を受けたいという欲望の表れだ。知らない土地に出かけていくと、環境がまったく変わり、知らない街、知らない店、知らない人との出会いがある。旅は大きな刺激であり、何らかの財産に──新しいライフスタイルに触れる「試着」の場という龍崎さんの話には説得力がある。
ハードとしてのゴージャスさや、ソフトとしてのおもてなしを謳ったホテルは少なくないが、「思いがけない体験=行ってみたくなる過ごし方」を提案しているホテルは限られる。龍崎さんがプロデュースしたホテルは、自身のリアリティを持った過ごし方があるから、手応えを得ているのだと想像が及んだ。
コロナ禍の影響を聞いたところ...