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音声メディアに注目 どうなる?ラジオCMのクリエイティブ

ヒット連発のクリエイターが集結 東西「ラジオCM談義」

古川雅之、谷 道忠、森田一成

個性やストーリーを重んじる独自のクリエイティブで発展を遂げてきたラジオCM。音声広告への注目が集まる今、東西を代表するラジオCMのクリエイターはその表現とどう向き合っているのか。

最近、印象的だったラジオCMは?

古川:昨年はコロナ禍での録音になって、みんな大変でしたね。でも企画自体はコロナだからどうということはなく、商品をどう伝えるか、何を面白さとするのかに注力してつくっています。ここ数年で印象に残っているのは、同じ電通関西の直川隆久くんがつくった「金鳥少年」シリーズ。名作です。SNSでも大ブレイクして、漫画に描き起こす人が現れたり、ラジオCMの可能性を再確認しました。キンチョウのラジオCMはリスナーからの期待値も上がり、ハードルが高くなっているけれど、毎年楽しんで企画しています。

谷:私は2020年、録音すること自体が大変だったこともあり、それぞれ記憶に残る作業になったんですが、たとえばマイベストジョブのラジオCM。電通関西の正樂地咲さんと福居亜耶さんがクリエイティブで、何年もお世話になってきた仕事なんですが、2020年は国内も海外もリモートでスタジオと繋いでコロナ禍の状況に焦点を当てたラジオCMをつくりました。

クリエイティブのおふたりとお得意様のリラックスできる雰囲気づくりや、リモートで話すことに慣れ始めていたこともあって、案外いつもスタジオでやっているような感覚で楽しく録音できたんですね。でもやっぱり現場でしか生まれないものはあるので、リモートでもいかにその瞬間を生み出していくかは今後課題です。

ファーストブランド/マイベストジョブ
ラジオCMに出演するバイトを、リモートでやってみた!「韓国のケイコさん」篇(40秒)

韓国のケイコさん:やっぱり、バイト検索サイトは、マイベストジョブがいいね!
わたしは、ケイコです。
二年前まで大阪でデザイナーをしてたけど、小学校の時から憧れてた韓国で、今、働きながら語学勉強をしています。
こちらも、あまり出歩けないので、こうやって、韓国の自宅からラジオCMに出るアルバイトに、挑戦中です。
やっぱり、バイト検索サイトは、マイベストジョブがいいね!
(韓国語で)「やっぱり、バイト検索サイトは、マイベストジョブがいいね!」
お母さん、ケイコは元気やでー。

   

森田:僕も古川さんと同じで、コロナやからどうのこうの、という意識はせずつくりました。家でラジオを聞いていると、自粛感が強いものはなんか元気なくなるし、逆に居酒屋で騒ぐみたいなCMも気にしなさ過ぎやろと思っちゃう。不快にならないことだけは意識して、単純に楽しいことやった方がいいのかなと思っています。担当した中で、印象的なのは、ちゃんぽん皿うどんの中央軒のCM。「またみんなでお店に来てね」と大合唱するCMです。飛沫が飛ぶから、ひとりずつ歌って、それを地道に合わせていきました。

中央軒「CHOOSE OUR KING」篇(120秒)

♪:ちゃんとまたみんなに笑顔で会いたい
ぽんぽんと会社で仕事したい
さらにいうと、うちのごはんだけじゃなく
どこかに食べにいきたい
ん~1番行きたいところは~

CHOOSE OUR KING CHOOSE OUR KING
いま食べたい NO.1 選ぶのならば
CHOOSE OUR KING CHOOSE OUR KING
私たちの KING OF KING それが中央軒

チャンスは
ポンポン来ないけど
さらば涙
WOO DON’T CRY~
ちゃんぽん 皿うどん
TUESDAYか金曜に食べたい~

TUES or 金 TUES or 金
火曜か金曜以外も食べたいんやけど
TUES or 金 TUES or 金
長崎ちゃんぽん 長崎皿うどん

中央軒 中央軒 いろんな人の声を全部ちゃんぽんして
中央軒 中央軒 みんなに届け この想いサラウンドで

中央軒~中央軒~
お店でみんなの笑顔が見れますように
中央軒~中央軒~
もちろん持ち帰りも対応しております
中央軒~中央軒~
ちゃんぽんチャンピオン 皿うどんさらにドーン
TUNING OK~ TUNING OK~
このラジオ聞いてくれて ありがとう~

 

とはいえ、合唱ならではのグルーヴ感やパワーも欲しかったので、かなり注意しつつメインの数人は横並びになってもらっての録音もしました。現場の楽しそうな雰囲気は音だけゆえによく伝わると思います。実際、ナレーターさんが迷って読んでいると伝わってくるんです。コロナ禍の中、出演者さんの気持ちをどう上げていくかを一番に考えながら仕事をしていた2020年でした。

古川:技術的にはスタジオと演者をリモートで繋いで、人が集わずとも録音できる。でもやっぱり演者の横にいることは大事で、表情やテンションを実際に見ながらじゃないとむつかしい演出も多いと思う。

森田:あと多少、新しい人とは仕事しにくいです。きちんと挨拶して進めないとその人の性格やノリもわからず、かなり気を使います。

古川:僕はよくやるんですが、たぶん森田くんも演出するとき、口移しするよね?身振り手振りをつけてこんなニュアンス、“間”でやってほしいとやってみせて、はいっ!て。でもリモートだとタイムラグ出るからむつかしいんよね。

森田:ですね、顔芸になってしまいます(笑)。

谷:うちは自社スタジオを運営しているので、リモートで作業するための環境づくりは結構大変でしたね。スタジオにいるのはエンジニアだけで、ナレーターの方も含めて全部リモートで録音できるシステムを整えたんです。通常の仕事をしながら日々技術スタッフが頑張って夜中までシミュレーションして、昼間はみんなでその会議。ストレスの溜まりすぎで最後の方、社員間でリモート越しに大げんかとか(笑)。

意識していたのは、リモートだけれどできるだけ現場で作業している感覚に近づけること。スタジオ全体が見えつつ、それぞれの人をアップで映したり、プレイバックの際の音質の問題など、試行錯誤しました。

古川:リモート越しに大げんか(笑)!それでもやっぱり実際に会って録音するのがいいですね。ナレーターが練習中にぼそぼそ言っている微妙なテンションが良かったり、何より現場で思いつくこともある。

谷:同じ現場にいるとお互いに影響を受けながら想定以上の完成形を目指している感覚があるけれど、リモートは設計図以上のものが生まれにくいのかもしれません。

森田:マイベストジョブみたいにリモートをうまく使った企画は成立すると思うけれど、普段と同じことをリモートでするのは、ちょっと難しい。ある程度、音は綺麗に録れるから、リモートを選ぶなら、きちんとリモートならではの企画を考えることも大切な気がします。

ラジオは、個人的なこだわりがウケる

谷:コロナ禍では制作の大変さはありつつ、コロナをきっかけに久しぶりにラジオを聞いたという人は増えたと聞きます。

森田:Twitterを見ていてもラジオCMの感想を書く人が増えた気がします。個人的には面白いラジオCMって案外少ないと思っていて、面白いものが流れると嬉しくてツイートしてくれると思います。

古川:テレビもグラフィックも良いものはツイートされていると思うけれど、ラジオはよりパーソナルな感じがします。テレビCMや目立ってる街中のポスターは、みんなで共有してる感覚があるけれど、ラジオはもっとパーソナルで「自分(の耳だけ)が発見者だ」みたいな感覚があるのかもしれない。「めっちゃ面白いの見つけたから、誰かに聞いてほしい」という熱を感じる。

谷:確かに発言が熱くて、熱心なファンの方がついている印象はあります。自分事になりやすいっていうのは、大きいですね。

古川:そもそもラジオは個人的なことと相性がいいと僕は思います。ラジオDJの日常の話や、お便りコーナーの何気ない話につい引き込まれてしまうのもそう。一般的でなくとも、「僕はこう思うんやけど」とか「どう?これ変わってて面白くない?」と言えば、「面白い」と聞いてくれる人がいる。商品やクライアントにもよると思うけれど、「個人」のしゃべりが強いメディアだから、どんどん「個」でいけばいい。

森田:確かに、自分が好きだなというのをやり切った方が意外と評価されたりします。僕は企画するとき、商品の第一印象を書き出して、そこから考えます。振り返ると早い段階で書き出した第一印象の方が聴取者にも届いてることが多い。そういう本音をぶつけるメディアだと思います。

面白いと思ってるものがないと、面白くならない。

古川:いざラジオCMをつくろうとなると、毎回めちゃめちゃ新しいことをやろうとしても、ね、正直無理(笑)。ただ、ちょっと珍しいもの、少しだけ今までと変わったものがないかと探す。今、自分が興味あるものとか、世の中の人が思っていることとか、苦し紛れに何か引っ張ってきたり、無理やりくっつけたりしてるうちに、「あ、できたかも!」「いや勘違いかも!」という繰り返しで。キンチョウの「G作家の小部屋」の時も、考え続けていた中で、偶然できたようなもの。若いときはネタ帳つくってたけれど、使えた試しがない(笑)。

森田:僕も、ネタ帳見返して溜息つくことの方が多いです。

古川:飲み屋で集めた面白い話、ドジな話とか書き溜めて、よし使おうとノートを開くけれど、結局は次の飲み屋でしか使えない(笑)。ネタを無理やり広告に押しはめようとしたら無理が生じるから面白くなくて、幾度となく失敗しました。広告だからやっぱり正攻法で、商品・企業と自分、世の中をどう結ぶかということを考え続けた先で……何かがポンと結びついてジャンプしたりするのかな。そこを探すしかないんですよね。でも毎回どう思いついたのかわからないから、次もなかなか思いつかない(笑)。

森田:僕もずっと頭の片隅に置いて別のことをしていて、ふと繋がったときが、思いついた、思い出したという感覚に近い気がします。でもいざ原稿にしてみたら面白くないことがいっぱいあるんです。だから、最近は思いついただけでは興奮しないようにしています。

古川:経験を積んでくると、何となく思いついたかなという感じで書き出して、書きながら考えて完成させることができてしまう。でも、そうやって手癖で書くと簡単だけれど、そんなに新しいものにならないと気づいた。2019年の「G作家の小部屋」の時はあえて書かないようにしました。何を言うのか、何を面白さとするのかという企画の外堀ばかりを考えて、原稿にするのは最後の最後にした。そうすると、苦しいけれど新しいものができるかもしれません。

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