クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、イラストレーターで2020年6月にイラスト&エッセイ集を刊行された三好愛さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『空の穴』
小金沢健人(著)
(ブルーマーク)
芸術系の大学の油画科に入学して、現代美術の作品をたくさん見たり、天才かと思う同級生に出会ったり、油絵具を顔料からつくってみたり、高校時代に放課後3時間だけ予備校でデッサンをしていたときと比べると大違いの毎日を送るようになりました。しかし、美術というものにこれでもかと接するうちに、それはそれで美術に胸焼けしてしまい、自分が美術の何を好きなのか、よくわからなくなりました。わからないものはわからな過ぎてうんざりするし、わかりやす過ぎるものにもそれなりに抵抗があるんです。
そんな折、これは、と手に取ったのが小金沢健人さんの作品集『空の穴』でした。とても良い密度で柔らかく描かれた色鉛筆のドローイング集なのですが、夢を見たときにたまにある、夢の中では成立してるんだけど、現実だとありえない設定、みたいな感じとか、なんとなく手を動かしただけのように見えて重力のある空間がそこに立ち現れていたり、とか、わかりそうなのにわからない世界が穏やかに展開されていて、見ているととても落ち着きました。『空の穴』という、シンプルで魅力的な言葉だけどよく考えるとなんのことだか不思議なタイトルと、見事にマッチした素敵な装丁も大好きです。