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クリエイター300人調査 これからの働き方白書

電通から独立 人生100年時代のクリエイターの働き方とは

ニューホライズンコレクティブ/野澤友宏、赤松隆一郎、関本みよ

個人が年齢にとらわれず、社会において長く価値発揮できるような新しい選択肢、「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」。電通が出資し、LSPを具現化する新会社「ニューホライズンコレクティブ(NH)」が設立され、2021年1月事業を開始した。電通からNHに参加した約230人の中から、発起人のひとりでNH代表の野澤友宏さんと、赤松隆一郎さん、関本みよさんに話を聞いた。

「学び直し」と「事業開発」の助走期間を設ける

野澤:最初に「ライフシフトプラットフォーム(LSP)」について説明します。多くの会社では、50歳を過ぎると現場の最前線を後進に譲ったりすることで活躍の場が変わったり、役職定年などで年収が減少したりするケースが増えます。でも、「人生100年時代」といわれる現在、50歳は人生の折り返し地点にすぎません。ミドル社員も常に学び直しながら、「プロフェッショナル」であり続けることが重要です。

そこで私たちが考えたのが、ミドル社員が新しく価値を創造し、自ら活躍できる環境をつくるためのサポートをすることでした。具体的には、LSPに参加した社員が会社を離れて個人事業主や法人代表になり、電通が出資する新会社「ニューホライズンコレクティブ(NH)」と業務委託契約を結ぶ。以降、最長10年間はNHに一定の業務を提供しながら、やりたいことに挑戦してもらいます。

挑戦を支えるために、NHは一定の固定報酬を支払うとともに、各メンバーが行った業務から生まれた事業利益をインセンティブ報酬として支払います。固定報酬を段階的に引き下げ、その代わりにインセンティブ報酬の割合を引き上げることで自立への道筋をつけていくことを目指しています。

赤松:画期的で面白い制度ですよね。立ち上げたきっかけは何だったんですか?

野澤:2018年ぐらいからNH共同代表の山口裕二と人生100年時代にどう働くかを考えはじめたんです。僕はずっとクリエイティブですが、40代半ばをすぎると、マネジメントか、バックオフィスか、他の部署に異動するか、いくつかの分かれ道がある。

定年までクリエイターとして働ける人は、そう多くありません。でも実際は、40、50歳頃から脂が乗ってくる人もいて、ライトパブリシティの秋山晶さんのように80歳を超えても現役でコピーを書いている方もいる。そういう人たちを見ると、一生クリエイターとして生きるにはどうしたらいいかを考えるようになりました。だったら転機が来る40、50代に学び直しの助走期間を設けて、会社を辞めても新しい個性をもって働けるようにしたいと考えたんです。

将来を考えるきっかけになった

関本:NHの社内発表が2020年7月にあって。そのときはまさにコロナ禍の真っただ中で「会社やばいのかな?」と思いました(笑)。でも、話を聞いたらそうではなくて、2018年からそういう構想があって考えられてきたことだと知りました。共同代表の山口さんとは仕事をしたことがあり、とても信頼できる人でした。なので「この人が言うなら大丈夫かも、やってみようかな……」と軽いノリで決めちゃいました。

NHの参加を検討しているときに「17年間も電通にいる」ということを知ってびっくりしました。私は中途入社で、電通も数年したら辞めて次のところにいこうと思っていたんです。同時に、20代のときに40代の先輩を見て「アイデアをずっと出し続けるのは大変なんだな」と思うこともあって。「アイデアが枯渇したベテランになる前に40歳になったら広告の仕事は辞めよう」と考えていたことも思い出しました。これまで独立したいという気持ちはなかったのですが、それを思い出して「ここで大きい挑戦をしないとダメな人間になる」と思ったんです。

赤松:僕はだいぶ前から自分がサラリーマンに向いてないことはわかっていました(笑)。周りの人に「独立しても仕事くるのに、なんで電通辞めないの?」と言われることも多くて、実際この数年考えてはいたんです。でも、辞めたら本当に食べていけるかやっぱり不安で。だから、NHの制度で一番良かったのは、収入は下がっても契約した一定の仕事をきちんとやれば固定報酬が得られる、というところでした。自分は好きなことをやるかわりに家族を急に不安にさせたり、大きな我慢を強いるのはいやだなと思っていたので、これは革新的ですよね。

あと、会社員でいるといろいろと“不要なうしろめたさ”を感じることもあって。たとえば、最近、愛媛に戻って身内を看病しながらリモートで仕事をする期間があったんですが、レギュレーションに違反しないように変に気を遣ったり。あと自分のつくった音楽がきっかけで仕事が生まれたりした時、楽曲を提供して収入を得ると副業になるから毎回会社に報告しなければいけなかったり。それは組織に属していると当たり前で、むしろ電通はそのあたり寛大な会社だけれど、、、欲深いんでしょうね。それすらも面倒になった(笑)。

関本:社外の友人たちにNHの話をしたら、全員が「そんな前代未聞なことは乗る以外の選択肢ない。良い会社だね」と言っていて(笑)。

野澤:そうなんですよね。一部ネットの書き込みを見ると「体のいいリストラ」という意見もありましたが、それだけだったらこんな面倒な仕組みはつくりません(笑)。この話を会社に提案したときに、経営陣の皆さんが「人材がもっている価値を十分に花開かせるのも経営のミッションである」という言い方をしていたのが印象に残っています。

電通じゃないどこかで何かをしたい

野澤:NHの募集をしたら個性のバラバラな人たちが約230人も集まってくれました。今までクリエイティブと経理の人間が一緒に何かをつくることはなかったけれど、今後はそういうチャンスが生まれて、他人や自分の意外な才能に気づく面白さがあると思います...

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