「2020年度グッドデザイン賞」受賞対象1395点の中から大賞に選ばれたのは、通常の50分の1の水量でシャワーや手洗いなどに利用できる自律分散型水循環システム「WOTA BOX(ウォータ・ボックス)」だ。
水まわりの「文化」も変えていきたい
「人と水の、あらゆる制約をなくす。」をビジョンに掲げ、水処理装置の製造・開発を手がけるWOTA(ウォータ)は2014年に設立された。「WOTA BOX」は2018年7月の西日本豪雨での試験導入を経て、同年9月に製品規格を決定。2019年11月から出荷を開始し、これまで自治体のほか、レジャー施設やイベント会社、環境保全の観点から上下水道の設備に制限のある国立公園、さらには南極の昭和基地などで導入されている。今回の受賞を機に問い合わせが増えており、今後ますます用途が広がりそうだ。
災害現場での備蓄用、あるいは水不足に悩む途上国の支援といった目的に適した製品だが、WOTA 代表取締役CEO 前田瑶介さんは「文明の発展や生活インフラ確保のために役立つのはもちろんのこと、水まわりの文化も変えていきたい」と考える。
「たとえば建築物の多くは、配管の構造によって水まわりの設備の配置が自然と決まってしまいます。つまり建築物の構造は“水”というライフラインの制約から逃れられない、というのが当たり前でした。ところがどこでも移動可能な『WOTA BOX』を活用すれば、水回りの機能を自由に動かせる。住宅からオフィスに切り替えたり、家族の形態が変わっても柔軟にリフォームしたりできます。水の利用効率が50倍以上になるというコスト面のメリットも大きい。屋外でも活用する場面が広がれば、都市開発の在り方も変わってくるはずです」。
ポータブル手洗い機を3カ月で開発
前田さんが水のインフラに着目したのは、2011年の東日本大震災で被災した経験から。ちょうど大学受験の合格発表で徳島県から上京していて、新宿区内に滞在中に断水を経験した。前田さんの地元には上下水道はなく、各家庭が湧き水を利用して自前で水を確保する環境が当たり前だった。だからこそ生命を左右する水が止まっても何も打つ手がない、という大都市の高度なインフラの現実に疑問を持った。
「調べていくと浄水場のメカニズムはブラックボックスが多く、職人的な感覚を頼りに成り立っているとわかった。そこで...