クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、里山に移り住んだ耕さない農耕者 東千茅さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『自我の起原 愛とエゴイズムの動物社会学』
真木悠介(著)
(岩波現代文庫)
おそらく人間だけが、ここまで強固な自我を持つ。厄介千万な「私」というもの。わたしがあまりに私であることがあらゆる苦しみの根源であるように思われ、こんなものならないほうがいいのではないかと、かつてわたしは自分の自我を呪い、持て余したものだった。
進化生物学者 ドーキンスの「利己的な遺伝子」論や「延長された表現型」論を土台に、人間の自我について掘り下げる本書によると、自我とは、遺伝子の再生産という生物界の鉄則から解放された無目的な存在である。けれども同時に「個体は個体自身ではない何かのためにあるように作られて」おり、個体にとっての悦びは他者や他種に浸透され幾らか自己でなくなること(忘我、無我夢中)であって、それは自我の強い人間も例外ではない。このことは、強固な自我にもかかわらず、いやそれゆえに、自由で悦びに充ちた生き方の可能性を拓く。
人間の堅牢な自我は、人間を他者から隔離し世界から剥離しもするが、逆にこの自我という要塞は、それを突き崩すほど強大な悦びを待ち構えてもいる。里山に移り住み、稲や大豆や鶏、その他の異種たちと癒着し、彼らを育み、彼らに育まれるという...