クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、ラブリとして活動する一方、アーティストとしても活躍する白濱イズミさんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。
『はてしない物語』
ミヒャエル・エンデ(著)、上田真而子、佐藤真理子(訳)
(岩波書店)
6年経った今も変わらない存在感を本棚から放っている。読み耽っていたあの日は12月31日の夕方頃。行きつけの喫茶店はもう店を閉め、年越し料理の準備をカウンター越しで始めていた。コーヒー豆とすき焼きの匂いが混ざり合い食欲が渋滞している最中、人差し指と親指で挟む紙の薄さが今年の終わりと重なりあって妙に寂しさを感じている。すき焼きは完成間近だった。私は最後の一行を読んだ時、初めて言葉から“打たれる”という感覚が予想もしない状況から訪れてしまった。私はその一行にとんでもなく、心を打たれている。なのに目の前ですき焼きが完成している。あまりにも残酷だと思った。
たった一行にこんなにも打たれているのに、周りからは「お疲れぃっ」などといった雄たちの焼酎のような声が聞こえてくる。私は恐れながらゆっくりと本を閉じた。その恐れは当然のように訪れる。今日は年越し、これが現実だ。私がこの本にどれほど感動したかなんて誰も知るわけがなく、ここにいる全員がすき焼きに夢中になっている。私は全てを諦めて「マスター今年もお疲れ」と言って今年最後のすき焼きを食べることにした...