2020年度TCC賞 受賞リスト
グランプリ
大日本除虫菊/ゴキブリがうごかなくなるスプレー他/ラジオCM「先生は、ゴキブリでありながら日本を代表する作家でもあるという…極めて異端な存在なわけですが」
TCC賞
トヨタモビリティパーツ/jms(ジェームス)/WebMovie「連続10秒ドラマ『愛の停止線』」
サントリーホールディングス/BOSS/TVCM「この30年がどんな時代だったのか、そう簡単にはわからない。ただ、ひとつ言えることは…この惑星の住人は、平成の時代にも、けっこうがっつり働いた。」
大塚製薬/カロリーメイト他/TVCM他「考えつづける人にとって、栄養は、味方になる。満腹感は、敵になる。」
日清食品ホールディングス/日清ご褒美ラ王他/TVCM「しろは、とうにゅうたんたかたんたんたかスープ!くろは、くろずさんさんらーたんたたんすーぷ!」
花王/アタックZERO/TVCM「#洗濯愛してる会」
キユーピー/キユーピーマヨネーズ/雑誌「ちょっと屋上に行って、ズッキーニを採ってきて。」
カネボウ化粧品/KANEBO/TVCM他「唇よ、熱く希望を語れ。I HOPE.」
トヨタ自動車/トヨタイムズ他/TVCM他「トヨタイムズ」
プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン/PANTENE/新聞他「#この髪どうしてダメですか」
西日本電信電話・テルウェル西日本/電報/WebMovie「文例番号P0085」
テレビ朝日・東宝・プレミアムスポンサー各社/『君の名は。』地上波放送/TVCM「提供が…入れ替わってる~!」
宝島社/企業/新聞「ハンマーを持て。バカがまた壁をつくっている。」
ジャパンパーク&リゾート/日本一心の距離が遠いサファリパーク~姫路セントラルパーク~/ポスター他「そう。これは、昭和と平成と令和をまたぎながら成し遂げた、奇跡の低認知率。」
日本マクドナルド/ごはんバーガー/TVCM「ごはん、できたよ。」
審査委員長 麻生哲朗
投票というシステムの中で、どれだけ審査の精度を上げられるかのチャレンジが今回はあった。一次審査の拡充、二次足切りラインの見直しなどある程度成果はあったと思う。事実、最終審査に残った対象作は例年よりバラエティにとんでいた。最終審査がオンライン審査会になったのは、世界的アクシデントの中でのギリギリの決断。この方式が審査内容にどう影響したか、しなかったかは今年だけでは断言しづらい。
ただリモートゆえに、審査会場のうねりというものがなく、各審査委員が個々で受賞作のバランスやラインアップを意識せざるを得なかったかもしれない。
そんな中結果的に頭二つほど抜けだし、グランプリを受賞したのは金鳥ラジオCM。「確実に」「誰もが」面白いと思える作品が票を集めた。2020というもはや特殊な1年の受賞作たちは、一言では括りにくい、新旧入れ替わる過渡期のざわつきも感じた。その中で、原点に近いところで、鮮やかな仕事をやってのけたラジオCMがグランプリというのは興味深い結果だった。
秋山 晶
僕たちが目指すもの
楽しい審査だった。コピーライターの仕事は多彩だった。さまざまな通信手段。さまざまな映像。さまざまな技術。時間と言葉。空間とデザイン。物として残るもの。瞬時に消えるもの。
アートに視点を移してみよう。かつては絵画と彫刻でしかなかったアート。それが、意識の具象化。環境の創造。ヒトの内面から、生存する空間を表現しようとしている。
コピーライターの仕事にアートの志向を感じる時があった。リアルだった。
安藤 隆
大好きということでもないのだけど、トヨタイムズのCMには以前から注目していた。コロナがなくても先の見通せない時代に、前向きに時代を突破しようとする企業の未来的な取り組みと、その取り組みを広告に未来的に転写しようとする企画者の興味ある共同実験として。それにしてももう少し楽しくならんかな、とオンエアをみるたび思いつつ……これからも注目してゆきます。あとはやっぱりキユーピーかな。
これからのコピーライターに求められるのは個人の責任において書く本名性のようなものかなとも思うので、それらの意識的な先行者として80半ばになっても衰えることのない秋山晶さんの前衛性にあらためて注目したことでした。
磯島拓矢
タイアップ広告を遊びきった日清カップヌードル「大切なシーンがあります」、最新のCMソングとして完成度が素晴らしい日清焼そばU.F.O.「マキシマム ザ 輝夜月2」、日本を誉める文脈の最終形とも言える東京都交通局「企業広告」。賞に入らなかったものの中で、僕が積極的に票を入れた仕事です。今年も票が割れました。それは言葉の使われ方の幅が広がっている結果だと思います(昨年も同じようなことを記しましたが)。ますます混沌とし、バトルロイヤル状態になっているTCC賞。あと数年したら賞の結果にもそれが如実に反映される予感がします。どうなんでしょう。
一倉 宏
グランプリのラジオCMは、まさにコトバだけで生み出した異形の世界。映像化できない(しない方がいい)のも、カフカと同じだ。花王、カネボウ、P&GのメジャーなキャンペーンがTCC賞となったのは特筆すべきだと思う。それぞれに掲げたコピーの旗印が頼もしい。それはマクドナルドも同様だった。
新人賞でも、キャッチの力、コピーの力で勝ち取ったと思える作品が印象深い。最高新人賞は企画の力というべきだが、後になって「心を読める心くん」という重要なキーフレーズに気づき、なるほどと思った。みなさん、おめでとう。
井村光明
グランプリ投票が14作品に散らばることとなりました。これは珍しいことなのだそうです。リモート審査のため他の審査員の方々の雰囲気は分からなかったのですが、僕の実感では、高いレベルで個性の強い作品が集まり、評価というより好みが分かれたということのように思いました。
一方で、初のリモートでの審査は、否応なく時代というものを意識してしまったように思います。かつて「コピーは時代を映す鏡」と言われていたような、コピーライター以外の人にもTCCのメッセージが伝わる、そんなコピーを求めてしまう気持ち。
審査委員長賞は「近所のスナック」と「新元号」。僕が今回の審査で思っていたことをズバリ言い当てられたようでした。
岩田純平
受賞作で好きだったのは「君の名は。」と「カロリーメイト」でした。「君の名は。」は2019年の広告界で一番の事件だったし、「カロリーメイト」のコピー「考える人にとって、栄養は、味方だ。満腹感は、敵だ。」は初めて見た時、素直に「やられた……」と思いました。賞には入りませんでしたが、ポカリスエット「#19番目の選手」、岩手日報「華ちゃん」、東京マラソンのポスターも印象に残っています。
新人賞は今年もレベルが高く、コピーに何かアイデアが付加されたものに、これからの広告の可能性を感じました。TCC賞も新人賞も超接戦でおもしろかったです。 受賞した皆さま、おめでとうございます!
上田浩和
今年を代表する一行はなんだろう。審査から1カ月以上が経ち、記憶もあやふやになってきたなかで、ぱっと思い浮かぶのは、「人間まるだし。」
受賞作品はどれもすごかった。キンチョーのラジオCMはオンエアで聞いたときから、これが今年のグランプリだと思った。アタックには、洗剤のCMでここまでやれるのかと思った。PANTENEは世の中を変えた。カネボウには激しく嫉妬した。
でも、今年の一行となると、「人間まるだし。」だと思う。「人間まるだし。が最高新人賞をとれなかった年」として、2020年は刻まれるような気がする。褒めすぎ?でも、裏を返せば、強い一行が他になかったとも言える。なんて偉そうなこと、僕にはとても言えない。
太田恵美
一次→二次→最終審査→決選投票と続く審査の行程で、みなの顔が歪み、唸り声さえ聞こえるのが最終審査です。持ち点が限定され、じぶんの選考基準が問われる。今年は一人15票。たったこれだけしか入れられない。「絞れない、落とせない」の唸り声です。近くにいた麻生審査委員長からは「どうする?どうする?うー、ごめん」と苦しそうな独言とともに、いちど評価したものを落とすべく叩くPCのキーの音が響いていました。みんな同じ。ここに選ばれた受賞作は、「それでも落とさせない」だけの力を持ったものたちということになります。
中では、TCC最高賞のG作家先生と電報文例の2点が、企画と表現レベルの高さに私はよだれが出ました。