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制作環境の変化で拡大するキャラクター活用

「とっくにネタは尽きた」それでも面白さを追求し 8年続くCMに

トライグループ/家庭教師のトライ「教えて!トライさん」

2012年にスタートし、9年目に突入したCMシリーズ「教えて!トライさん」。アニメ『アルプスの少女ハイジ』をモチーフとした企画はどのように生まれたのか。オリジナルキャラクターを織り交ぜつつ、長く愛され続ける秘訣とは。

©ZUIYO

商品の魅力を分かりやすく伝えるフォーマット「教えて!トライさん」

アニメ『アルプスの少女ハイジ』のキャラクターへのアテレコでおなじみのテレビCM「教えて!トライさん」シリーズ。トライグループが提供する「家庭教師のトライ」のオリジナルキャラクター「トライさん」が、ハイジに勉強を教えるというストーリーがベースにある。方言、クイズ番組風、漫才など常に新しい表現を取り入れながら、ユニークなCMを世に送り続けている。これまでに制作した本数は、秒数などのバリエーション違いも含めると、なんと215タイプにも上るという。

2012年からスタートした同シリーズ。最初のアイデアについて、当時から企画を担当する電通 クリエーティブディレクター 野﨑賢一さんは、「トライのマンツーマン教育の魅力を分かりやすく伝えるフォーマットが何かないかと、澤本嘉光さん、篠原誠さん、東畑幸多さんと探していました。そこで、思いついたのが、テレビアニメ『アルプスの少女ハイジ』の主題歌『おしえて』の『おしえて おじいさん』という歌詞でした。アルプスでの暮らしを教えるのがアルムおんじであれば、勉強を教えるのはトライさん。アニメの本編にもハイジが勉強をしているようなシーンがあり、ぴったりでした」と話す。

アニメのキャラクターであるハイジやクララ、アルムおんじたちに加えて、家庭教師のトライのオリジナルキャラクター トライさんをつくり、登場させたのも本シリーズの特徴だ。『アルプスの少女ハイジ』の世界に本来は存在しないトライさんがいることで、物語が変化し、展開が広がる。

トライさんのキャラクターを設定する際に、大切にしていたのは、異物感だという。「スーツ姿で眼鏡をかけた男性」は、ハイジの世界ではありえない存在。何パターンもデザイン案を出すなど試行錯誤し、ハイジの世界観とはあまりそぐわないが、信頼感のあるキャラクターに仕上がった。実はトライさんの職種である「教育プランナー」は、トライのサービスにおいても重要な役割を果たしている。生徒一人ひとりの成績アップや合格に向けて、教師と連携して成長をサポートしており、CMの世界と現実世界を繋げる役割も担っている。

これまでに制作してきた「教えて!トライさん」シリーズ。さまざまなキャラクターの表現を工夫してきた。

©ZUIYO

1本1本が面白くなければ意味がない

いつも企画は、アニメの気になるシーンを探すところから始まる。企画制作チームのメンバーで、そこにどんな言葉を合わせたら、ギャップが生まれ、CMが面白くなるか、商品の魅力を伝えられるかを考えて、仮に映像をつないで声を入れてみる。それを繰り返し、膨大な映像コンテの中から1つの案に決める。案が決まれば、さらにセリフを詰め、映像に合わせて声を収録していく。決めゼリフなどは100テイクを超えることも珍しくない。ナレーションのタイミング、商品のテロップの大きさなどをクライアントと一緒に、1フレーム、1ミリ単位で調整。そうしてCMは完成する。

「毎回どれだけの人に好きになってもらえるかの挑戦です。どんなに長く続くシリーズでも、視聴者から見れば、テレビで流れる1本のCMにすぎません。だから毎回ぎりぎりまで粘ってつくる。基本的なことですが、その積み重ねが大切なことだと思います」(野﨑さん)。

企画がスタートした時点では、原作アニメとのギャップを感じられるキャラクター設定やストーリーだけで十分に面白がってもらえた。今はそれに加えて、前作のCM内容とのギャップも生み出さなければならない。

「ハイジが次にどんなことをしてくれるだろう」という期待値があるからだ。「振り向いてもらうことと商品の魅力を伝えること以外に、企画の決まった方向性はありません。この表現はありえないなどと考えずに、毎回いろいろなことに挑戦するのみです。あるとき、アルムおんじが指笛を吹くシーンに『ピーヒョロロ』というFAX機の音をアテレコしたことがありました。セリフ以外の部分にも音を当てられることに気付き、アテレコの可能性が広がった。また、時代が変われば好まれる表現も変わります。YouTuber風の表現、お笑い芸人『ミルクボーイ』とのコラボなど、その時代に合った表現を模索しています」。

長く続けることで生まれた価値

8年以上シリーズが続くことで、見えてきたことも多くある。「ハイジといえば、トライ」「トライといえば、ハイジ」というイメージが定着。今では「子どもが『アルプスの少女ハイジ』のアニメを見ていたら、トライさんがいないと話していた」といったエピソードを耳にすることもあるという。

キャラクターならではの“年を取らない”という強みが、時間の経過に伴い価値を増している。8年経ってもハイジは一向に勉強が得意にならない。だからこそ、いつも同じ姿勢で生徒に寄り添うことができる。さまざまな年代の生徒にとって、“ハイジと勉強”がセットで想起されるようになっているのだ。

また、ハイジと共に、トライさんの価値も高まっている。アニメ『アルプスの少女ハイジ』のキャラクターたちも、権利元の許諾を経て教材などに使用しているが、ハイジが使えない場面でも、トライさんが登場すればCMの設定が連想される。加えて、トライさんは家庭教師のトライのオリジナルキャラクターなので、自由に表現も変えられる。作画タッチの違うイケメントライさんが登場したこともあるほどだ。

「ハイジが使える限りは『教えて!トライさん』を続けていきたい」と野﨑さん。「シリーズが始まってから、もうすぐ10年。ここまで長く続くとは想像もしていませんでしたし、とっくの昔にネタは尽きています。それでも、飽きられないためにアイデアを絞り出し続けるしかありません。制作スタッフも8年間ほとんど変わっていないし、毎回、愛情を持って仕事を続けています。そして、クライアントも、例えば大阪弁にするなら、イントネーションを徹底するなど、クオリティへのこだわりを貫いてくれる。商品の魅力を伝えるには見られなければいけないし、見られるためには面白くないといけない。これからもクライアント、制作チーム一丸となって、面白さ、そして商品の魅力が伝わる表現を追求していきたいと思います」。

電通
クリエーティブディレクター/CMプランナー
野﨑賢一さん

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