クリエイターのオフィスを訪ねると、よく見かける、大きな本棚。忙しい仕事の合間に、クリエイターたちはどんな本を読んで、どのように仕事に活かしているのか。今回は、漆と金継ぎの修復家の河井菜摘さんです。仕事や人生に影響を受けた本について聞きました。

『日本漆工の研究』
沢口悟一(著)
(美術出版社)
18の頃に入学した芸大で漆に出会い、今年でちょうど人生の半分は漆と関わっていることになる。今は金継ぎや漆の修復業を生業としているけれど、漆の塗面に写真を写す作品をつくるなど今まで漆とは多様な関わり方をしてきた。18年を通して思うことは、知れば知るほど漆は奥が深いということ。奥深さだけでなく、塗料になったり接着剤になったりその機能は幅までも広い。漆は一生を通して探求できて、かつ、これからの時代にも残っていくべき自然素材だと強く感じている。この沢口先生の『日本漆工の研究』は漆に関する名著であり、この先の人生できっと何度も読み返す指南書になることであろう。
ここまで漆に関するあらゆる項目一つひとつについて掘り下げて書かれた本は他に類を見ない。金継ぎや修復に関して深く知ろうと思えば思うほど結局は漆とその歴史に行き着く。書籍とは先人の知恵に触れられるとても豊かなもの。知識や知恵は本を通して保存でき、ページを開くと今は亡き人の叡智に出会える。少し値段は張ったとしても自分の専門分野の書籍をそばに置くことは人生を豊かにしてくれるし...