電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛け合わせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。

箔押しのために生まれた黒い紙
黒い紙と金属箔。この組み合わせはニーズがあるものの、長らくある課題が指摘されてきた。金属箔が黒ずみ、光沢を失うことがあるのだ。湿度や酸素といった環境要因、また紙に含まれる成分などにより時間が経つと箔が腐食することがあるためだ。この腐食のメカニズムを解明し開発されたのが、8月に竹尾が発売した「箔守-FS」。紙由来の箔腐食を抑制するほか、紙の凹凸が響かず、箔押しが美しく映える。そんな画期的な紙を用いてデザインを手がけたのは、博報堂 デザイナー 野田紗代さんだ。
野田さんが「箔守-FS」を手に取った最初の印象は“真夜中”だった。「読書を夜に楽しむ人も多いですし、“夜”というテーマと親和性があるなと思いました。箔の部分も綺麗で、紙の上にフラットに存在している。真っ黒な紙の中に、光を感じられるという点が印象的でした」。
そんなインスピレーションを受け、寝る前に本を読む時間を一緒に楽しめる“相棒”のようなブックジャケットにしたいというイメージがわいた。そこから生まれたのが「夜行性」の動物を思わせるデザインだ。本を閉じると、夜空に浮かぶ「月」のよう。ところが本の両面を開くと動物の「目」が現れ、全く違う表情を見せる。「夜行性の動物は夜に黒目が大きくなるので、キラッと光る目と月のイメージを重ねました。使用した箔は2種。『消シルバー2B』は温かくて優しい印象です。『ホログラムゴールド1SG』はホログラムの強さにひかれて選びました」。
野田さんはいつもデザインをするとき「日常に何かユーモアや楽しさをプラスできたら」と考えている。今回もそんな思いを込めた。「本をもっと大切に扱いたくなる、可愛いなと思える。そんな風に愛してもらえる存在になれたら嬉しいです」。
キラッと光るブックジャケットで、秋の夜長に“夜行性”の読書を楽しんでみたい。

大塚製薬 カロリーメイト「二◯二◯年、夏、部活。」雑誌原稿

pdc WafoodMade 酒粕パック「山手線を酒粕ジャック」特殊印刷を使った、質感のある中づり
今月使った紙:箔守-FS
箔押しのために開発された黒のファインペーパーです。箔腐食のメカニズムを解明し、紙由来の箔の腐食を抑制する機能を備えました。かすかに赤味を帯びた深い黒、箔押しに紙の凹凸が響かないスムースな面感により、箔押しの美しさがよりいっそう際立ちます。

野田紗代(のだ・さよ)
1990年生まれ。愛知県出身。金沢美術工芸大学卒業後、2013年博報堂入社。第三クリエイティブ局、CREATIVE TABLE 最高 所属。企画、グラフィック、動画までメディアにとらわれず、愛を込めて愛されるものを作ります。主な受賞にYoung Lotus Grand Prix、朝日広告賞、読売広告大賞。