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クリエイターが知っておきたいバーチャル表現の基礎知識と倫理観

著作権法も改正 バーチャル表現と知的財産にまつわる注意点

関真也(弁護士)

VR/ARの法律上の取り扱いとしては、基本的には従来のデジタルコンテンツと変わらない。一方で、法律が必ずしも想定していなかった革新的な利用方法の登場で、顕著な問題が生じることも。本稿では弁護士の立場からその例をいくつか紹介し、10月に一部施行される著作権法改正の内容と制作の現場で役立つ注意事項を解説する。

VRによる空間の再現と著作権

商業施設、美術館、さらには街全体など、建築物やその他の空間をVRで再現する取り組みが盛んになっています。この場合、リアルに存在する建築物などの空間デザインに関する著作権に抵触しないかが問題になることがあります。

建築物(その内部構造を含みます)や屋外に恒常的に設置されている美術の著作物(彫刻など)をVR空間で再現することは広く許容されています(著作権法46条)。他方で問題になりやすいのが、彫刻その他美術的な造形が屋内の構造物に施されている場合です。例えば、建築物の壁面に装飾的な彫刻が施されている場合、これは建築物の構造そのものですから、著作権法46条により、VR空間で再現することが許容されやすいでしょう。

これに対し、例えばショッピングモールの屋内スペースの床に据え付けられた銅像があるとします。この銅像を含むショッピングモール全体をVR空間内で再現したとき、銅像の著作権を侵害するでしょうか。この銅像を独立した美術作品とみた場合、屋内に設置されている美術の著作物であるため、著作権法46条により許容されない可能性があります。他方、この銅像をショッピングモールという建築物の内部構造の一部と評価すれば、同条により許容される可能性が出てきます。

どちらと評価されるかは、その銅像と建築物の内部構造との位置関係などを踏まえた表現上の一体性ないし結び付きがあるかどうかがポイントになってきます。もっとも、これらの問題点については裁判例も少なく、難しい判断が必要となります。VR空間でのエンターテインメントや商業活動がより活発化し、VRの建築物内外をアバターで行き来するのが一般化していくにつれて重要性を増すポイントと考えられます。

ARによる表現の付加と著作権

2017年、ニューヨークのウォール街にある雄牛の銅像「Charging Bull」に相対するように設置された少女の銅像「Fearless Girl」は、世界的な広告賞を多数受賞するなど大きな注目を集めました。他方で、「Charging Bull」の作者である彫刻家が著作権侵害を主張し、騒動となりました。1987年の株価大暴落(ブラックマンデー)を受け、アメリカのパワーの象徴として制作された「Charging Bull」が、女性の役員登用などをメッセージとする「Fearless Girl」に対置されることでネガティブなイメージに歪められたというのが彫刻家の言い分でした。

ところで、ARを活用することにより、「Fearless Girl」の事例のように、他人の著作物に新たな要素を付加することが可能です。しかもこの場合、現実に存在する他人の著作物自体には変更が加えられず、端末の画面上でデジタルコンテンツが付加的に表示されるにすぎません。加えて、端末の画面上に表示される他人の著作物は、カメラを通じて映し出される現実環境そのものであり、有形的に再製されていないため、複製権侵害は成立しないと考えられます。

しかし...

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