国内のバーチャル表現の現在地は見えてきた。さて、グローバルではどうだろう?APAC領域で活躍するR/GA エグゼクティブ テクノロジー ディレクター Laurent Thevenetさんの協力のもと、今年8月よりR/GA東京でエグゼクティブクリエイティブディレクターに就いた中出雅也さんが語る。
バーチャル体験が新しい現実をつくる
VRやバーチャルリアリティという言葉が急速に定着し始めたのは、もともと軍事や医療の世界でシミュレーションによる訓練のツールとして研究が進められていたものを、“VRの父”とも呼ばれるコンピュータ科学者Jaron Lanier(ジャロン・ラニアー)らが80年代にビデオゲーム向けのヘッドセットとして商用化した頃からだった。日本では「仮想現実」という言葉が使われているが、その後AR(拡張現実)、MR(複合現実)、イマーシブ(没入型)などさまざまな技術や表現へと発展してきた。
ジャロンが言うように、仮想現実はどれだけ技術が進歩しても現実にはなり得ない。それでも、現実から解き放たれた意識の拡張を体験し、その体験を現実に持ち帰ることが新しい現実を創り出すかもしれないという期待はある。そういう意味でバーチャル体験を考えてみると、小説、音楽、映画、テレビ、広告ですらそれぞれの時代の技術を駆使したある種の「仮想現実」として、狭義のバーチャルリアリティのイメージを超えたとらえ方ができる。これらのバーチャル体験を通じて私たちの想像力や技術力は常に拡張し、新しい世界を創り出してきた。
デジタルの世界が私たちの日常に浸透し、新しい体験が日々生み出されている現在、世界は加速度的に変化を繰り返しバーチャル表現もあらゆる方向に向かって拡張している。
境界を越え拡散するバーチャル表現
最近のアジアやグローバルでの広告・コミュニケーション領域におけるバーチャル表現の中で印象的だったものといえば、ゲーミングプラットフォームに組み込まれた体験だろう。Travis Scott(トラヴィス・スコット)の「Fortnite」におけるバーチャルコンサート(01)や、「マインクラフト」における「ブロックバイブロックウエスト・ミュージックフェスティバル」などがあるが、もともと仮想現実として生まれたゲームの世界の中に、本来のゲームコンテクストの外部の世界を紛れ込ませることによって、より一層予想のできないリアルな体験を創り出している。
これとは逆に、デジタルプラットフォームを利用して仮想現実を現実の中に持ち込むことにより、その境界線に疑問を投げかけているのがLil Miquela(02)、Shudu、日本でも馴染み深いimmaといったバーチャルインフルエンサーたちである。InstagramやYouTubeを上手く活用してフォロワー数を増やし、さまざまなブランドとのコラボに忙しい。またバーチャルファッションを手がけるThe FabricantやCarlingsはSNSが抱える社会問題やファッション界の公害問題を逆手にとり、新たな解決策を提案している。
ECももともと仮想の販売店舗ではあるが、携帯電話の普及により時間や空間を利用した限定販売が盛んになり、「ポケモンGO」さながら限定版のスニーカーを求めて街を歩きまわる熱心なファンも現れている。「Adidasキューブ」はスニーカーやストリートファッションの祭典「コンプレックスコン」のイベントスペースを、ARアプリを使って一瞬にしてバーチャルポップアップショップへと変え観客を喜ばせた。
R/GAがNikeと開発した「A/Rジョーダン」(03)はスナップチャットのARレンズでアイコニックな3Dジョーダンのジャンプショットをとらえることで、彼が履いているシューズを購入できる。ソーシャルネットワークを利用した空間に制限されないバーチャルショップとなっている。
VRセットを使ったバーチャル表現の発展型の例では...