2018年11月16日、amazarashi初の日本武道館公演が行われた。“新言語秩序”という言葉が表現するのは、一般市民同士が発言を見張り合う監視社会。スマートフォンアプリを使用した演出は、国内外で高い評価を集め、SpikesAsia、ACC賞、文化庁メディア芸術祭などに入賞。そして、今年6月9日、Ver.1.01としてYouTubeで同公演の映像が期間限定配信された。
最後の楽曲でのカタルシスを最大化する
「アンチニヒリズム」をコンセプトに掲げるバンド、amazarashi。メンバーは一切姿を見せずに、絶望の中から希望を見出す辛辣な詩世界でファンを増やし続けている。2018年11月には、amazarashiにとって初の武道館公演を開催。
ライブのコンセプトは、朗読演奏実験空間“新言語秩序”だ。多種多様な他者を傷付けることのないテンプレートに沿った言葉しか発言できない世界。テンプレートから外れた発言は他者を傷つける危険があると、取り締まり対象となる。そうした「テンプレート逸脱」を取り締まる自警団「新言語秩序」とそれに対抗するレジスタンス「言葉ゾンビ」が争うというストーリーが朗読と楽曲の両軸で描かれた。
「ライブの観客は、アプリで『抵抗運動に参加しますか?』という問いに『参加する』と答えます。観客はレジスタンスの一員として、『新言語秩序』への抵抗運動に参加するんです。観客一人ひとりが、物語の登場人物になる。amazarashiの最大の武器である歌詞が次々と検閲されていく中、レジスタンスたちがスマホを会場で掲げることで、検閲を解除することができる演出にしました。寺山修司の市街劇のように観客と演者の垣根を壊すのです。観客自身が、検閲を解除することで、事前に配布された小説の終わりが変化して、トゥルーエンドに分岐。ずっと検閲されて聴けなかった『独白』が公演の最後に遂に明らかになります。『言葉を取り戻せ』と叫ぶ『独白』の瞬間のカタルシスをいかに最大化させるか。このゴールに向けて、当日の演出装置というだけではなく、小説からMV、ゲリラショップまですべてをアプリに格納。公演の当日だけではなく長期的な物語を紡ぐためにアプリを活用しました」とSIX クリエイティブディレクター 本山敬一さん。
ライブ中、スマートフォン上では特定の周波数に反応し、カメラ機能が作動、ライトが光るなどの演出が繰り広げられた。FUTUREK ジェネラルマネージャー/チーフプロデューサー 小林大輔さんは、「ライブが始まってから2時間半の間、バッテリーを持たせることと観客のスマートフォンの反応差を少なくすることが、一番の課題。また、ライブへの没入感を与えつつ、最後まで演出装置として機能するためのバランスは、試行錯誤しました。演出のトリガー音もライブの流れを切らずにストーリーとして違和感のないものにクリエイティブチームが仕上げてくれました」と話す。
ファンの盛り上がりが可視化された
そして、ライブからおよそ1年半が経過した今年6月9日、同公演のライブ映像がYouTubeで期間限定配信された。新型コロナウイルスの影響で、予定していたツアーが延期になったため、何かできないかと立ち上がった企画だ。配信に合わせ、アプリもアップデート。武道館公演当日のみ反応する仕組みを、既発のBlu-rayやDVD、配信動画でも反応するように修正を加えた。
「ライブ会場だと五感で音楽を感じられるし、音質ひとつとっても全く違います。amazarashiの場合...