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コロナ禍でファンを増やした料理人の愛とデザインの話

sio

コロナ禍で、多くの飲食店は厳しい状況にあるのは自明のこと。そんな中でも、SNSでの発信をもとにファンを増やしているのが、sioだ。早々にテイクアウトに舵を切ったオーナーシェフ、鳥羽周作さん。「料理人やレストランにはデザインが必要」と話す、そのこころはいかに。

代々木上原のフレンチsio。

フレンチがテイクアウトに踏み切った

代々木上原にフレンチレストラン「sio(しお)」、丸の内にそのカジュアルライン「o/sio(おしお)」、渋谷に“純洋食とスイーツ”の「パーラー大箸」を展開するsio。「おふくろの味」と「5味+1味」をsioの「イズム(主義)」として、他には無い料理の数々を提供している。

東京都が外出自粛を要請してすぐの3月29日、sioはテイクアウトのみでの販売に踏み切った。「HEY!バインミー」、「贅沢弁当」などを売り、自宅での料理用に「#おうちでsio」としてレシピを公開した。時を同じくして、代表取締役/オーナーシェフの鳥羽周作さんは、自身のSNSで料理動画をアップしたり、「#教えてsio」といった、フォロワーの悩み相談を実施。レストランの味が自宅で楽しめる手軽さや、できた料理の味への反響が大きく、口コミが口コミを呼び、鳥羽さんのTwitterのフォロワーはこの期間で4万人以上増えた。

誰もが苦しいはずのこの状況で、鳥羽さん、そしてsioを突き動かしたものは何だったのだろうか。

自分が何者か、を把握すべき

鳥羽さんは「コロナ禍によって、世の中の人たちが何にお金を使うか、前よりも選ぶようになりましたよね」と話す。「選ぶということは、その対象が何者で、何をしようとしているのかを見極める、ということ。逆に言うと、今後選ばれていくためには、自分が何者で何をしようとしているのか、さらにきちんと把握する必要があります。そうでないと、何が自分の魅力かもあやふやになってしまう。この厳しい時代に、それは致命的なことです」と、鳥羽さん。

「僕の場合は、『料理人』で、『幸せの分母を増やす』こと。それがすべての判断基準です。この状況で必要とされていることを考えたら、それはフレンチのコース料理ではなく、1000円~2000円ほどで楽しめる、お弁当やバインミー(ベトナムのサンドイッチ)でした。バインミーにしたのは、キャッチーであるのと、手に持って食べられるもののなかで、最もレストランの味を体感してもらえるものだから。戦略的には、競合が少ないというのもあります」。

売上的には厳しいものの、単価を下げたことで、結果的により多くの人にsioを知ってもらえるようになった。「これまで店舗で食事をする人がお客さんだったのが、それが拡張された。『幸せの分母を増やす』ことに立ち返ると、より本質的な形に近づいたと思います」。現在はお店を開きながら、テイクアウトも継続している。

「HEY!バインミー」。

「究極のジャンクチラシ」と銘打った「チキントーバーライス」。

sioの「贅沢弁当」。

相手が求めるものを提供するのが「愛」

コロナ禍で、本当に必要とされていることを考え、フレンチレストランがテイクアウトにふみ切ったこと。相手が求めるものを考えて提供する、それを鳥羽さんは「愛」と呼ぶ。料理人として「愛」を実現するには、時にはメニューを増やす必要があるかもしれない。「もちろん実現できる範囲がありますが、もし炒飯が食べたいと言われたら、できればつくってあげたいんです。さらに言うと、SNSでメッセージをもらったら、言葉は短くてもいいからすぐに返すだとか。相手を喜ばせることを、とにかく細かく丁寧にやる、という姿勢を心がけていますね」。

鳥羽さんは、sioのロゴをつくったgood design company 水野学さんを、「まさに愛の人」だと話す。「水野さんは、お花をプレゼントしてくださるとき、必ず緑と白の組み合わせなんです。それは相手のどんなシーンでもなじみ、邪魔にならないから、だそう。どこまでも他者への愛と想像力のある話ですよね。それを僕なりに解釈して、実践してみているっていう感じです」。

一方で、「愛」という言葉が含む危うさも見逃さない。「都合の良いものじゃないですか、愛って。だからこそ、相手への解像度を高くして伝える配慮が必要だと思います。カテゴリは違いますが、ロゴひとつにしても、フォントでイメージは変わる。相手の描くイメージをできるだけ的確にとらえる、というか。それを料理をベースにやっています」。

sioの公式Instagramのストーリーズで行われた「#教えてsio」。鳥羽さん本人が、寄せられた悩みに回答した。

sioの若手料理人たちのTwitterアカウント。名前に「sioの」とつけて、情報発信する。

料理人とレストランの未来にはデザインが必要

これからの料理人像や、レストランの在り方について、「デザインが必要だと思う」と話す鳥羽さん。「自分が『何者か』『何をしたいのか』を把握し、相手への解像度を高くして、伝えたいことを明確にしていく。それって、デザインのプロセスと同じだと思うんです」。sioの料理人たちは、SNSでの自分の名前を「sioの食いしん坊料理人」「sioのフェス好き料理人」「sioサービスマン」などにして、自分が日々学んだことを言語化し、発信している。

「こういう行動って、料理人そのものをデザインしているように思えませんか?ブランディングにも見えるかもしれませんが、水野さんの『ブランディング=見え方のコントロール』という言葉を借りると、見え方をどうにかしたいのではない。日々、自身の人生や、料理人そのものをデザインしている過程を公開している、という認識が近いかもしれないですね。さらに大枠でとらえると、レストランそのものにもデザインの余地がまだまだある。

これまで、レストランは美術館と同じように、料理人の世界観を見に行くものだったかもしれません。テイクアウトの人気が出て、sioのイズムを体感できる手段が増えた今、レストランはプラットフォームのように存在しうる。今後はレストランがどう世の中を変えるか、というより大枠のデザインに挑戦することがsioの使命のようにも感じています」。

sio
代表取締役/オーナーシェフ
鳥羽周作さん

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