新型コロナウイルスの感染拡大で消毒用アルコール不足の中で、江戸時代創業の高知県の酒造メーカーが一石を投じた。「困っている人に1日でも早く届いてほしい」という気持ちから、自社の持つ資産を活用し行動を起こした。スピーディーな動きにつながった、彼らが大事にしているものとは何か。
恩返しをしたい気持ちが動機になった
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ衛生対策が急がれる中、消毒用アルコールと同等のアルコール分を含む、度数77度の高濃度スピリッツ「アルコール77」をいち早く発売したのが、高知県・安芸市の老舗酒造メーカー菊水酒造だ。日本政府が緊急事態宣言を発令したのが4月7日。本製品は3日後の4月10日には発売開始。TwitterなどSNSで注目が集まったのをきっかけにテレビの報道番組でも取り上げられ、大きな反響を呼んだ。
同社 代表取締役社長 春田和城さんは、「江戸時代から酒の製造業をする中で、これだけお酒で世の中の役に立てることはなかった。とにかく1日でも早く必要とされる人に届けるのが、私たちの役割だと考えました。お酒というのは本来、暮らしを愉しく豊かにするためのもので、“生活必需品”ではないのです。ですが、アルコール77は今を生きるために必要な品だという位置づけで開発しました」と話す。
厚生労働省によると、新型コロナウイルスの感染防止対策について「手や皮膚の消毒を行う場合には消毒用アルコール(70〜83%)が有効」としている。スピリッツは、酒税法上の分類のひとつで一般的には蒸留酒のことを示す。「アルコール77」はいわゆるお酒である。同じエタノールである消毒用・除菌用アルコールの品薄状態が長期化している中、自分たちにできることは無いか?と春田さんは考えた。この動きが契機となり、現在では50社以上の酒造メーカーが参入。同社は先陣をきったかたちとなった。
春田さんは、アルコール77の商品開発の動機についてこう述べる。「新型コロナウイルスが蔓延していく中、マスク不足から始まり、2月末にはアルコール消毒液まで手に入らなくなり、医療機関でも品薄だと報道。我々の手元には酒類原料用のアルコールが潤沢にある一方でのアルコール不足を疑問に感じました。いろいろ調べたところ、容器が足りない、生産している企業の手元にないなど、増産が進まない歪みを知りました。酒造メーカーとしてどういう対応が取れるだろうと社内でも議論し、3月中旬には製造に向けて走り出しました」。
この時、春田さんの心中には...