博報堂でアートディレクターとして広告の仕事に取り組む一方、紙の可能性を広げるべく、自主プロジェクトを続ける岡室健さん。さまざまな新しい技術を組み合わせたイノベーションプロダクト制作や、新しいメディアの開発に挑んでいる。
紙の新しい可能性を提案
──この10年間でご自身を取り巻く環境に、どんな変化を感じていますか。
僕は大学院在籍時の2年間、ドラフトのD-BROSでアシスタントを務めていました。そのときに時間をかけて手でつくることの大切さを徹底して教わりました。卒業後は博報堂に入社し、永井一史さんにディレクションの方法、アイデアとは何か、コピーライティングとの組み合わせかたなど、企画のつくり方の多くを学びました。
今年で、博報堂に入社して15年目を迎えますが、これまで色々なアートディレクターの先輩から学んできたこと全てが大切で、それぞれを融合した、僕なりのアートディレクターのやり方を見つけられないか仕事を続けてきました。しかし、この10年くらいは広告やメディアはもちろん、デザインを取り巻く環境が大きく変わりました。映像やデジタルで新たなコミュニケーションの形が工夫されている中で、アートディレクターは何をすべきか、何ができるのか。この2~3年の間、ずっと模索しています。
──何か方向性は見えてきていますか。
広告界を振り返ってみると、僕が会社の流れの中で最近大きく変わってきたんじゃないかと思うのが、ストラテジックプランナー出身で、クリエイティブも理解できる人の活躍。マーケティング思考の企業がかなり増えているというのも実際的にあるとは思いますが、彼らは世の中に対する答えの導き方を一番先頭のところから導き出していくので、クリエイティブにバトンする時に、すごくきれいな道を敷いてくれている。それでいて最後のアウトプットまできちんとコミットする。
アートディレクターにも、アートディレクターならではの、今の時代の道のつくり方があるのですが、複雑な役割分担の中でうまくやっていく方法はまだ整理がついていないかもしれないです。
──ここ数年は仕事とは別に、研究や展示の企画などの活動もなさっていますね。
個人で活動し始めたのは、5、6年前。仕事でうまく花火を打ち上げることができずに日々が流れていくことに焦りがあったからです。そのときにクライアントのいる広告の仕事ではなく、自分を発注者にして、自分が好きなことで世の中に新しい可能性を提案することができないかと考えました。それで最初に紙のイノベーションを起こすべく、布のように伸びる紙をつくることにトライしました。
その後、東京大学で折り紙の研究をしている舘知宏教授と出会い、その研究内容をどういうアイデアで世の中に提案できるかを考えたのが、竹尾で開催した「紙とテクノロジー折り紙の呼吸展」です。その後、舘教授が「SILVER NANOINK(電気が通るインク)」を研究している先生を紹介してくれたことをきっかけに、紙にテクノロジーを付随させることでもっと面白いことができることを知り、いくつかの展覧会を企画。メディアとしての紙の新しい使い方については、今もさまざまなトライを続けています...