新型コロナウイルスが、経済活動にも大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。そんな状況の中でも、グローバルブランドはいち早くメッセージを発信し、アクションを起こしている。ここではTBWA\HAKUHODO 細田高広さんに、そんな世界の動きを分析してもらった。
コロナショックに素早く反応した欧米ブランド
2020年の4月上旬の時点で、新型コロナウイルスによる社会の混乱は収束する気配がない。このような緊急事態下で、ブランドはどのように振る舞うべきなのだろうか。参考になるのは欧米企業の多様な事例だ。日本よりも速いペースで深刻な事態に直面した欧米は、社会そのものが一種のパニック状態に陥った。ブランドたちは混乱初期においてはユーモアを忘れない姿勢を見せてメッセージ発信を行い、深刻化してからは顧客やコミュニティを守る行動に切り替えていった。本稿ではまずこうした欧米企業の事例を俯瞰して紹介し、その上で日本のブランドが何をするべきかについて考えてみたい。
ACTION1.いち早くメッセージする
米国のコカ・コーラ社は、連なったロゴを分断した上で「離れていることが、いまはいちばん、ひとつになる方法だ」というメッセージをタイムズスクエアに掲出した(01)。初期に見られた企業の態度表明は、この事例のようにソーシャル・ディスタンシング(人と物理的に距離をとり、接触を避ける行為)を呼びかけるものが多かった。自動車業界ではフォルクスワーゲン(02)とアウディ(03)がどちらもロゴを通じた啓蒙を行ない、中東でも日産が1台もクルマが走っていない街を映すフィルムで「STAY HOME」と呼びかけた(04)。
米国では他にNIKEの行動が早かった。「世界中の多くの人のためにプレーしたい。そんな夢があるなら、いまがチャンスだ」というコピーで家の中での運動(プレーすること)を促した(05)。一方、欧州では同じくスポーツブランドのadidasが#HOMETEAMと銘打ち、家にいながらバーチャルなチームになって一緒に活動しようと呼びかけている(06)。
ACTION2.売り物を変える──化粧水より消毒液を
やがてメッセージの発信よりもさらに踏み込んだ企業が現れる。なかでも賞賛を集めたのは、ビジネスの本業そのものを、期間限定とはいえ大きく変える決断をしたブランドだ。世界的ビール会社、アンハイザー・ブッシュは米国でビールの代わりに手の消毒液をつくり始めた(07)。「世界を変える何かは、私たちの手の中にある」というメッセージを添えて。ヨーロッパではLVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)が化粧品をつくる工場を利用して、同じく消毒液を生産しフランスの病院に届けている。
世界的なイベント情報サイト“TIME OUT”はネーミングを“TIME IN”に変えた。意訳で説明するならば「お出かけの時間」という雑誌が「巣篭もりの時間」に期間限定で改名したということだが、これは言葉だけの話ではない。注目したいのは肝心な記事自体も家にいながら楽しめるイベントやエンターテインメントを紹介する内容に切り替えたということだ(08)。名は体を表す、の実践と言えるだろう。
ACTION3.ブランドの力を命の最前線に──人を救う医者を誰が救える?
危機においてヒーローとは、決して広告的セレブのことではない。現場で戦う人たちを意味する。いまの世界では医療関係者だろう。彼らがウイルスと向き合う最前線をサポートすることも、ブランドの果たせる大きな役割だ。たとえばAirbnbはイタリアにおいて医師と看護師に対して無料で住居を使えるようにした。またオーガニックサラダ専門店であるSweetgreenはすべての病院勤務者に無料で食事を提供することを決断。病院までのデリバリーも無料とした。
ACTION4.顧客の生活危機を救え──お客様を神様より弱者と捉える
お客様ファーストという言葉が単なるスローガンか、偽りのない信念だったのか。緊急事態になると、その違いも明らかになる。米国の小売業ではTarget、Walmart、Whole Foodsといった企業が高齢者や疾患を持つ人だけがゆっくりと買い物できる時間を特別に設定することで感染に弱い人々を守ろうとした。自動車会社のフォードは製品広告をすべて差し控えて、車両ローンの猶予や救済措置(FORD CREDIT SUPPORT)を発表(09)。こちらは顧客の経済的困窮を救うための一手だ。