「さ、ひっくり返そう。」というキャッチフレーズで、2020年1月1日に出稿された西武・そごうの正月広告。角界で最も小兵な力士として知られる炎鵬が小さくレイアウトされた紙面には、「ここまで読んでくださった方へ。文章を下から上へ、1行ずつ読んでみてください。逆転劇が始まります」というメッセージがある。その言葉通り下から読むと、「勝ち目のない勝負」と思われたものが大逆転劇に見えてくる。2019年に続き、世の中の注目を集めた「言葉の逆転劇」はどのように生まれたのか。
インナーとアウターに向けたメッセージ
西武・そごうの正月広告を企画・制作したのは、フロンテッジのスタッフ。その一人、クリエイティブディレクター 上島史朗さんは2016年に樹木希林さんを起用したキャンペーン「Advanced Mode」から西武・そごうを担当している。「当初は、年齢が高い女性にもっと自由にファッションを楽しんでもらうべく、"年齢を脱ぐ。冒険を着る。"というメッセージで企業広告を始めました」。
一方、世の中ではECの台頭や大型流通の閉店などが続き、百貨店の未来を危惧する声が聞こえてきた。「こうした背景もあり、当時の担当の方から、社員一人ひとりがもっと自分ごと化して主体的に動いてほしい。そういう思いを言葉としてかたちにできないだろうか、というご相談がありました」。そして生まれたのが「わたしは、私。」というタグラインだ。
一般の消費者に向けてはファッションを通じて「個性を大事にしてほしい」というメッセージであり、社員にとっては「百貨店とは、自分である」と自分ごと化して行動してもらうためのメッセージという、2つの意味を持つ。以降、同社の企業広告では「わたしは、私。」というタグラインを据えながら、その時代を象徴する人を起用 …