「光るグラフィック展」を企画するなど、デジタルとグラフィックデザインの橋渡しをする田中良治さん。どちらのデザインにおいても、「自分の中で正解をつくって、それをどうズラすか」を考えているという。
Webもグラフィックも「いかにズラすか」
──セミトランスペアレント・デザインを設立した2003年と現在で、仕事を取り巻く環境などに変化はありましたか。
僕たちが提供しているものはほぼ変わりませんが、世間での受容のされ方が変化していますね。僕らは以前からネットメディアを中心に仕事をしながらも「テクノロジーだけにならない」ようにアイデアから考えるデザインに取り組んできました。今は以前よりもテクノロジーが当たり前の存在になったせいか、僕らがやってきたことが求められることも多くなりました。
新しいメディアの誕生によって世間の受容のされ方が変わり、それによってデザインの表情も変わりますが、僕はその“変わっていく瞬間”をちゃんと捉えたいという気持ちがあります。その意識のもと2019年に企画した「光るグラフィック展2」では、ギャラリー内を、実空間(フィジカル)と3D空間(デジタル・バーチャル)で構成しました。VR空間に展示されたポスターはどんな印象をうけるのか、亀倉雄策さんの1970年大阪万博ポスターなどを来場者に2通りの方法で見てもらって、その差を体感してもらいました。
──田中さんは「Webとグラフィックを繋ぐ人」というイメージがあります。
僕は情報科学芸術大学院大学[IAMAS]で永原康史先生のもと、グラフィックを学びました。IAMASではポスターをつくるようなカリキュラムはなくて、コードを書いてインタラクティブなグラフィックをつくっていたので、静的なグラフィックは永原先生の教えを参考に社会に出てからは独学で学びました。
グラフィックデザインにより興味を持つようになったのは、2014年に企画した「光るグラフィック展」から。この企画を担当してグラフィックデザイナーとの交流が増えたことが大きいですね。グラフィックはWebと違い、固定されたメディア。デザイナーは、その中でどう新鮮さをつくるかを考えています。
社会の状況を鑑みながらもトレンド通りにつくると埋もれてしまうから、そこをどうズラすかということに注力している。僕もズラすことを常に考えているので共感するところがあって。ルールが重視されるWebと違い、グラフィックには正解を前提としない寛容さがある。そういう「言語化されないまま漂っている感じ」を、僕もWebでつくれたらと思っています …