「出版不況」という言葉が叫ばれ始めて、早20年あまり。単行本や雑誌の売上が右肩下がりな一方で、最近では、独自のセレクトを売りにする小さな書店やブックカフェ、また個性的な本を手がける“ひとり出版社”が登場。さらに、本を通じたイベントやコミュニティが活性化するなど、新たな動きが生まれています。
今回、青山デザイン会議に集まってくれたのは、それぞれ立場は異なりつつも、本と深く関わる3人。東京・初台にある「本の読める店 fuzkue(フヅクエ)」店主の阿久津隆さん、長野県上田市を拠点にインターネットで古本の買取・販売を手がけるバリューブックスの飯田光平さん、そして書店でありながら、出版をはじめ新たなチャレンジを続ける青山ブックセンター本店 店長の山下優さん。「本と書店との新しい出会い方」をテーマに、書店や出版業界の現状やこれからについて、お話をうかがいました。
「出版不況」は思考停止
飯田:「出版不況ですけど大丈夫?」って、もう挨拶みたいに聞かれますよね。
山下:その「出版不況」っていうのが、僕は思考停止ワードだと思っていて。書店の粗利が低いとか、取次の流通網が機能していないとか、出版社の刊行点数が多すぎるとか、問題はたくさんあるんですけど、みんなそれを見ないふりしている。
阿久津:よく問われるテーマだと思うんですけど、正直、興味あります?
山下:全然ありません(笑)。よく「新しいことをやっている」と言われるのですが、普通の企業なら当たり前のこと。お客さんの生活スタイルが変わっているのに、書店も出版社も全然変わらない。本屋に何が足りないかといえば、「全部足りないんだから、全部やれよ」って思うんです。
阿久津:別に出版業界のために仕事をしているわけじゃないですもんね。
山下:一書店が全書店を変えるなんて無理なので、各々が各々の形でやっていけばいい。たとえばうちでは最近、出版プロジェクトを始めて、3月に小倉ヒラクさんの『発酵する日本』という本を出しました。今回はバーコードもつけず、青山ブックセンターだけで2000部売ります。
飯田:バーコードがないと、うちでは買い取れないですね(笑)。
山下:通常書店の粗利が20%くらいのところ今回は50%で、著者も印刷会社もしっかり儲かる。もう700部ほど売れていて、ひとつの形ができたなとは思っています。
飯田:僕の所属するバリューブックスは、長野県の上田市を拠点に、ネットで古本の買取と販売をやっている会社です。うちには毎日約2万冊の本が届くんですが、その半分が買い取れず古紙回収にまわっていて。
山下:とんでもない数ですね・・・・・・。
飯田:買い取れない理由は、単純に市場で値がつかないから。わざわざ上田に本を送ったのに、捨てられてしまう。それをどうにかしたいと思って、本棚の写真を撮るだけで買取金額がわかる「本棚スキャン」というサービスをリリースしました。他にも、古本が売れたときに出版社や著者に利益を還元する「エコシステム」というサービスも実験的にやっています。
阿久津:僕は初台で「本の読める店 フヅクエ」という名前のお店をやっています。本を読むのって、楽しいことじゃないですか。でも、カフェにしても「どうぞ思う存分本を読んでいってください」って言ってくれるわけではなくて、一抹の居心地の悪さがある。僕が欲しいものだったら、僕の生活が成り立つくらいのお客さんはいるんじゃないかな、と思って始めました。
山下:今度、下北沢に2店舗目ができるんですよね。ということは・・・・・・。
阿久津:いたってことですね(笑)。すごく儲かっているわけではないんですけど、5年やって小規模なりに成り立つというのがわかりました。何かの文化を広げるには、そのための場所ってすごく大事。たとえば映画館がなければ、今ほど映画を観る人はいなかっただろうし、最近だったらボルダリングスタジオなんかも、文化を広げるのに貢献していますよね。
山下:よくうちで本を買って、フヅクエさんに行くっていうツイートを見かけます。
阿久津:気持ちよく、贅沢に、全面的に歓迎されて本を読むという体験をいろんな人がしていったら、本を好きになる人も増えるんじゃないかなと思うんです。
山下:リアルな場所の大切さは、本当に感じます。一方で、続々と開発されている渋谷の高層ビルに、ほとんど書店がないことには危機感を覚えますね。もはや書店は、テナントとして魅力的じゃないんだって。
飯田:今は休店中ですが、うちも実店舗を丸5年やっていたんです。お店を見てバリューブックスのことを知って入社するスタッフもいるし、ふらっと来た人が本の卸しや選書の依頼をしてくれることもある。よく本屋では、知るはずのなかった本と出会える“幸福な事故”が起きるっていいますけど、それは店をやっている側も同じ。
山下:たしかに、本って毎日200タイトル前後も出ているので、書店員とはいえすべてを追うことは難しくて、僕らも配本されて知るものもあるくらい。そういう「無意識を意識化できる」のは、お客さん、書店ともにリアルならではの強みですね。
TAKASHI AKUTSU'S WORKS
本をもっと“どうでもいいもの”に
飯田:1日に1軒ずつ本屋がなくなっているっていうじゃないですか。僕は本屋が好きなので、さびしいなと思う反面、「そりゃそうだよな」と感じる部分もあって。
山下:昔は、週刊誌とか月刊誌を入れ替えるだけでも売れたので、ただ並べているだけでよかった。よく今まで、生き残れたなっていうのが正直なところですね。
阿久津:でも「月1冊、好きな本を買っていいよ」って言われて、なんでもない街の本屋さんに行って本に囲まれていた時間って、代えがたい経験でしたよね。しっかりセレクトされた、かっこいいお店が増えるのももちろんいいのですが、もっと雑な、入り口になる店があったらとも感じます。
飯田:個人的には、本をもっと“どうでもいいもの”にしたいと思っているんです。子どもの頃、本を読んでいると親は何も言わないのに、ゲームをしていると「宿題はやったの?」って聞いてくる。僕はどっちも面白いからやっているのに、なんでゲームだけ怒られるんだ、って。
阿久津:本は読まないといけないと受け取られがちだし、本屋は支えないといけないと思われがち(笑)。しなくちゃいけないものに、何の魅力もないですよね。
山下:儲からないっていうイメージが強いから、書店員を志す若い人もいないですし。「本はイケてる」とか「書店イケてる」とか、ほんと単純でいいんですけど …