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多様性を表現した東京五輪メダル

川西純市

開催まで1年に迫った東京2020オリンピック(以下 東京五輪)。今年7月、公募による選考を経て、東京五輪のメダルデザインが発表された。立体造形を手がけるプロのデザイナーや学生など412人の応募者の中から選ばれたのは、大阪芸術大学美術学科卒業生の川西純市さんのデザインだ。

川西さんがデザインした東京五輪オリンピックメダル。使用済み携帯電話等の小型家電から抽出した金属を用いて製作される。リボンデザインは東京2020組織委員会、ケースのデザイン・製造は山上木工/吉田真也さん。

「和」よりも「グローバル」を意識

「これまで自分の作品を発表したいという気持ちはなく、コンペにも興味がありませんでした」と話すのは、川西純市さん。現在は公共施設や商業空間などのサイン計画や空間グラフィックを手がけている川西さんは、今回の公募の経緯を次のように話す。「自国開催のオリンピックメダルをデザインできる。そんな機会はこの先ないので、記念に応募してみようと思いました。デザイナーとしての自分の力を試してみたいという気持ちもありました」。

東京五輪のメダルは「光と輝き」「アスリートのエネルギー」「多様性と調和」という3つのコンセプトで、輝く光の輪をイメージしている。デザインにあたり、川西さんは応募の規定となる「エンブレム」のコンセプトを熟知することから始めたという。「エンブレムの異なる3種類の四角形を組み合わせた組市松紋は、多様性を表現しています。オリンピックは国や人種を超えて、人々が1つになれる機会。メダルもコンセプトを引き継ぎながらも、さらに広げたものにしたいと思いました」。

そこで"和"よりも"グローバル"を意識して、地球のモチーフの上にエンブレムを置き、そのまわりを立体的な光の渦が取り巻くデザインを考案した。どの角度からでも光を反射して輝いて見えるようにすることで"多様性"を表現している。

特にこだわったポイントは、光の渦のカーブだ。「こういう立体はカーブをつくろうとすると角が残ってしまうのですが、最終審査のレプリカをつくる段階で造幣局の力を借りたところ、綺麗な曲面に仕上げることができました。改めて日本の技術の素晴らしさを実感しましたね」。

川西さんは大阪芸術大学美術学科卒業後、抽象画を2年間専攻。デザイン学科の副手として働きながら、知識と技術を得た。その後、阪神・淡路大震災を経て、「もっと人に喜んでもらえるもの、役に立つものをつくりたい」という思いが強くなり、サインデザインの世界に。

「普段の仕事では多くのスタッフが関わっており、さまざまな情報を整理した上で、形にして伝えることが中心。だから、コンセプトを一つの形に集約するメダルデザインには、いつもの仕事とは全く違う考え方で臨みました。自分だけの考えをダイレクトにぶつけることができたので、仕事とは違う楽しさを経験できました」。

今回の経験を経て、川西さんはものづくりに対する考え方が変わったという。「多くの人は頭の中で面白いことを考えついても、自分の中でできる、できないを勝手に判断して、実現するのを諦めてしまいがち。でも、できないと思えることも日本の技術や優れた人たちの力を結集させれば、自分が思っていた以上のものになる。これからは、できないと決めつけずに、自分が面白いと思うことをもっと提案していきたいですね」。

編集協力/大阪芸術大学

川西純市さん

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