靴下やサポーターなどの企画・開発を手がけるタイコーは、創業72周年を迎える今年、地元・長野の自然の中での暮らしや知恵を研究してものづくりを行うプロダクトブランド「SYN:」を立ち上げた。

第一弾として発売された靴下は、アクティブ、デイリー、メディカルの3つのライン。中でもアクティブは、トレッキング、サイクリングと用途別の靴下を展開したことで注目度が高くなった。
72年目のリブランディング
長野を拠点とするタイコー4代目代表取締役社長である神田一平さんは、ブランドを立ち上げた経緯について次のように話す。「弊社が世代交代をするタイミングを迎えていたことと、長野県全体では若い移住者が増えるなど積極的な動きが生まれている状況を見たときに、自分たちもなにか新しいことしなければという危機感がありました。それを解決したいとジェトロのリブランディングセミナーに参加したことがすべてのきっかけでした」。
そのセミナーに講師として参加していたのが、テキスタイルデザイナーの梶原加奈子さんだ。「テキスタイル産業は廃業倒産が相次いで、生き残るために事業転換をしているメーカーが増えたことから、私も7年ほど前からブランディングに関わることが多くなっていたんです。それで今回のセミナーに参加したところ、神田社長から"新しいアクションを起こせるブランドをつくりたい"という相談を受けました」。
タイコーのリブランディングを進めるうえで、梶原さんは会社の現状分析からスタートしている。「神田社長に先代の話を聞いてみると、火に被せる防火布を発明して特許を取るなど発明・研究好きな家系で、技術開発に長けているところが特徴だと感じました。だから最初から"ラボ"のイメージあり、"新しい開発"がひとつの軸になると思いました。さらに、神田社長は"長野を世界に紹介したい"とたびたび言っていたので、靴下事業の新展開だけではなく、長野の自然や伝統、生活習慣を取り入れ、長野のプラットフォーム的なブランドをつくれたらいいと感じました」(梶原さん)。
それを聞いた神田社長は「長野はものづくりが盛んで弊社のような企業が多数あるので、他社ともコラボしながら長野のものづくりや自然を表現していけたら」と考えた。
長野から生まれる心身に健やかなプロダクト
ブランドの方向性について、二人は6ヵ月かけて話し合いを進めた。その結果、長野は長寿の県であり、医療用靴下の開発・製造をしていたタイコーは健康に関する知見もあったため、心身の心地よさや健やかさをブランドの考え方の中心に置くことに決めた。その後、ブランド名を決めるタイミングで、アートディレクターの植原亮輔さんと、プロデューサーの小山奈々子さんがプロジェクトに参加している。
「以前に私が立ち上げた製品ブランドでアートディレクションとブランディングを手がけてくれた植原さんに、まず声をかけました。私も植原さんも北海道出身、以前のブランドでは北海道から受けたインスピレーションを形にしていった経験もあり、雄大な自然を伝えていくという点で長野と通じるところがあると思いました」(梶原さん)。
依頼を受けた植原さんはプロジェクトを具体的に進めていく役割の人が必要と考え、ショップ運営や商品開発のプロデュースに関わってきた長野出身の小山さんに声をかけ、プロジェクトメンバーが固まった。
ブランド名を決めるにあたり、梶原さんは神田社長の言葉の中にヒントがあると考えていた。「神田社長は周りにいる人たちとのつながりを大事にしながら、多くの人に長野のことを伝えていきたい、長野のものづくりを応援したいと話していました。それを聞いて、ものの開発よりも心の開発だなと感じ、共感、共鳴、シンパシーという言葉が私の中に浮かび上がってきたんです …