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プロダクト開発 クリエイターの仕事

「着る映画」というコンセプトから生まれたブランド

三陽商会「CAST:」

三陽商会は「人生という物語を、演じるための服。」をコンセプトにした、女性向けの新ブランド「CAST:(キャスト:)」を8月に立ち上げた。「着る映画」をシーズンコンセプトに据え、映画「CAST:」をオンラインで公開。映画を観ながら登場人物が着ている衣装をシームレスに閲覧・購入できる"シネマコマース型"システムを導入している。

3人の主人公、LISA(飯豊まりえ)、ANNA(emma)、CARA(佐藤千亜妃)が登場する映画「CAST:」のキービジュアル。

ブランドの立ち上げに30分の映画を製作

CAST:の立ち上げを担当した三陽商会ディレクターの是永亜美さんは設立の経緯について「弊社は40~50代向けのブランドが多く、20~30代向けの女性向けのブランドが全くありませんでした。そのため、社内で20~30代女性向けブランド開発という新規事業が立ち上がり、ディレクターとしてブランドを一から作ることになりました」と振り返る。

今回のブランド開発には、電通のクリエイティブチームが参加している。「三陽商会はものづくりに定評のある会社ですが、情報発信が得意ではありません。でも今回立ち上げるブランドは、商品の良さは当然として、世の中にもきちんと発信できるブランドにしたかった。そのためには、外部の力を借りることが必要だと考えました」。そこでコンセプトを決める段階で電通に声をかけ、クリエイティブチームが結成された。

立ち上げに参加した電通クリエーティブディレクター 中村英隆さんは次のように振り返る。「最初に是永さんから"服を着ることで笑顔になり、輝けるようなブランドにしたい"という話を聞きました。ただ、20~30代向けの女性ブランドは市場に溢れていて、なんとなくのコンセプトのまま出すと埋もれてしまうので、もう少し研ぎ澄ませて尖ったキャッチーなメッセージをつくったほうがいいとお話しました。デザイン、名前、雰囲気だけでは売れないので、どこの部分を尖らせれば好きになってもらえるかを意識しながら、コンセプト案をまとめました」。

提案の一つが、「着る映画」というコンセプトだった。「一つひとつの服にストーリーを持たせたいと考えました。服のデザインにスポットを当てるだけでなく、その人の生き方、ライフスタイル、価値観などのバックグラウンドを服にもまとわせられないかなと。それを活かす手法として映画をつくることを考えました」(中村さん)。

提案を受けた是永さんは社内で検討した結果、「着る映画」のコンセプトの採用を決める。「個性のある女の子たちに服を着てもらい、映像と共に服を見せることで共感を呼び、購入につながっていくというイメージがすぐに思い浮かびました。デザインということにとどまらず、"服に個性を持たせる"ということが今の時代は大事だし、私たちが新しいブランドをつくる上では必要じゃないかと思ったんです」(是永さん)。

ただ、実現するためには高いハードルがあった。役員側から「ブランドを立ち上げるのに、予算をかけてわざわざ30分の映画を撮る必要があるのか?」という疑問の声があがったのだ。それに対して中村さんは「2分ぐらいのショートフィルムではダメなのか?という意見をいただきましたが、それではすでに世に出ているブランドのプロモーションムービーと同じに見えてしまいます。そうではなくて、三陽商会がいかに本気でこの新しいブランドにエネルギーをかけてつくったかということが、世の中に伝わったほうがいい」と考え、30分の尺で制作することにこだわったという …

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