電子書籍では得られない紙の本の魅力のひとつが、手触りや質感だ。ブックジャケットをつけられるのも本ならではの楽しさ。このコーナーではさまざまな質感を持つ竹尾のファインペーパーを使用し、そこに多彩な印刷加工技術を掛け合わせることで、触って感じる新しいブックジャケットを提案していく。

身体が素直に動いて生まれた線
1956年発売以来、穏やかな波のようなフェルトマークと豊富な色数で幅広く使われてきたマーメイド。今年、20年ぶりにリニューアルを図り、「イノセント」「オーガニック」「ジャパネスク」「ポップ」「フォーマル」「クラシカル」という6つのカラーテーマを設けて、カラーパレットを再構築。全60色のラインナップになった。
「いつも、自由度の高いデザインのご依頼があった時でも、お題から逃げずに取り組むようにしています。そうすると自分の中に少しの異分子が生まれて、新たな発見があり、結果として自分の糧になる。そこで、今回もマーメイドに真正面から取り組みながらも、私らしい回答を出せたら、と思いました」と、清水彩香さん。
デザインのテーマは、マーメイド(人魚)の住む「海」。「海は今回の紙の名前が由来するところでもあるし、私にとって本そのものが大きな海のような存在なのです」。そして、清水さんが描いたのが、紙と紙のはざまに漂う物語を優雅に泳ぐ、「マーメイド」の姿だ。水面いっぱいに受けた日光を反射するのは、金箔とパール箔の線。しっとりと波にゆらぐ陰は、メディウムを混ぜた特色銀インキで描かれている。曲線はすべて清水さんが鉛筆で手描きしたものを取り込んでいる。
「自分にとって美しいと思える線は、無理をすることなく、身体が素直に動いて生まれたもの。まずは紙と鉛筆で、自分の身体の動きと表現が直結する方法で描かないと、どうしても違和感が生じてしまいます」。
完成した4色のブックジャケットを手にした清水さんは「温かい風合いを持ちながらも、鮮やかで透明感のある色彩の紙に、箔が綺麗に表現されました。これまでは落ち着いた色味の紙でしたが、新たなラインナップはより"マーメイドらしさ"を増したような印象です」と話した。
※今回使用したのは、ペタルピンク、レースラベンダー、パウダーブルー、そして蛍光色であるネオ・ピンク。

「CREATION OF YOUR WORLD #28 with Yukako Izawa」ポスター

「資生堂 dicila」ポスター

「MIKIMOTO Chiristmas 2018」ウィンドウディスプレイ

「HOPE」チャリティー展ポスター
今月使った紙:マーメイド 四六判Y目 110kg
人魚のすむ海のさざ波のような、穏やかなフェルトマークが特徴のファインペーパーです。2019年9月、新色30色を含む全60色の現代的なカラーラインナップへとリニューアルし、より使いやすくなりました。

清水彩香(しみず・あやか)
1988年神奈川生まれ。2012年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。good design companyとBLUECOLORを経て、2017年独立。
編集協力/竹尾