PARTY 中村洋基さんは、電通デジタル顧問に続き、今年7月にヤフーのECD(エグゼクティブクリエイティブディレクター)に就任した。CM、デジタルを中心に広告に限らないさまざまな仕事を手がける中村さんが目指すのは、自分たちが考えた企画を「社会実装」することである。
中村さんが考える「クリエイティブディレクション」とは?
チームメイキング、プロジェクトを
アウトプットにもっていくための
チームメンバーの
モチベーションコントロール、
陥りやすい落とし穴の
先読みのスキルなどの集合体
クリエイターからビジネスパートナーへ
──PARTY設立から8年、自身を取り巻く環境に変化はありましたか。
広告のCDは大きく2つに分けられると思っています。チームを率いながら自分がプレイヤーとなって表現したいものを牽引するクリエイター型と、クライアントとがっぷりよつで向き合って一緒にビジネスを構築していく営業系。僕は完全に前者と思われていますが、後者を意識的に強めています。特に、8年前に電通から独立させていただいてから、一応は経営者と言われる身分になったので、経営者の目線になって話を聞いたり提案できることが価値のひとつになっています。
ただ、今も前者のクリエイターの要素を求められることもあり、それは普通にお仕事としてやっていますし、世の中に出るものなので、少しでも面白いソフトを作ろうと思いますが。正直に言うと、自分にやりたい表現や作家性、こだわりはあまりないですね。「一方的に伝える」より、「遊びのルールをつくる」ほうが好きです。
僕はもともと広告がやりたかったわけではないのに、この仕事を始めたこともあり、「広告とはなんぞや」「クリエイティブディレクションとは」などという思いが他の人に比べて希薄です。広告以上に、僕個人としても、PARTYとしても実現したいのは「社会実装」なんです。それはハードウェアで言えばiPhone、ソフトウェアではLINEスタンプのようなものです。こういうものをつくることで、人のコミュニケーションを面白い方向に変えていく、そういう仕事のお手伝いがしたいと思っています。
──フィンティックサービス「VALU」、アーティストと個人をつなぐ「The Chain Museum」、アーティスト支援アプリ「Art Sticker」など、PARTYでは自社発信の新しい動きが続いています。
VALUは、PARTYの一プロジェクトだったものが、完全に独立してフルタイムメンバーでカイゼンをしまくっています。「The Chain Museum」はスマイルズ遠山正道さんと伊藤直樹とが中心になって始めたものです。個人的には「Art Sticker」に可能性を感じています。これはアートへの出資や支援をデジタル化することで、その参入障壁を下げる試みです。
他にも現在いくつかのプロジェクトが動いています。クライアント企業と一緒にサービスを構築しているものもあれば、完全に自社プロジェクトのものもあります。βリリースをして、うまくいきそうだったら事業化する予定です。こういったものは、年間で些少ですが予算の枠をいくつか取っています。
また、当初予算が少なくともレベニューシェアの形でプロジェクトを提案・制作したり、スタートアップ企業に出資をしてマーケティング・クリエイティブを伸ばす、という取り組みが非常にうまくいっています。
PARTYは創業時、「広告賞を獲りそうな広告クリエイティブブティック」として始まりましたが、そこからは完全にピボットして、個のスキルを活かしたマイクロな「デジタル時代の商社」のようになっています。メンバー全員が少しずつ違うスキルを持っている集団だからこそ、世の中に還元するものは広告キャンペーンだけではなくてもよくて、事業、サービス、プロダクトなど、他が考えつかないことをやりたいんです。
ヤフーでも、まったく同じ動機です。「広告商品」という仕組み全体を「どうつくっても面白くなりそうな仕様」にしていくことによって、世の中に出る広告の全体を面白くしたい、と考えています。
──それを実現していくために、どんなことを考えていますか。
伊藤が「ピクサーの"ブレイントラスト"のような仕組みをPARTYにもつくりたい」と言っていて、僕も強く賛同しています。ピクサーは一人ではない、複数の監督から、きちんとヒットを生み出すことに成功しています。その背景にあるのが、ブレイントラスト会議 …