ニューヨークを拠点に活動するI&COのレイ・イナモトさんが、今年7月に東京にオフィスを開設した。日本のものづくりに大きな期待を寄せると同時に、2020年以降の日本のビジネスにもっと自分たちならではのクリエイティビティを発揮していきたいという。

I&CO
ファウンディングパートナー
レイ・イナモト
米・大手デジタルエージェンシー AKQA社に2004年から2015年までCCO(クリエイティブ最高責任者)として在籍し、Google、Nike、Audiといったグローバルブランドのデジタルマーケティング戦略の立案と実行をリード。2015年にInamoto&Co.を設立。2019年にIxCOと名称を変更し、東京オフィスを開設。
レイ・イナモトさんが考える「クリエイティブディレクション」とは?
「0から1」と「9から10」
何もないところから何かを生み出すことであり、人間にしかできない、
本当にいいものを仕上げるときに絶対に必要なもの。
"日本発21世紀のバウハウス"をつくる
──2015年にInamoto&Co(現I&CO)を設立後、ご自身や会社を取り巻く環境に、どんな変化を感じていますか。
設立以降、僕らが標榜しているのは「business invention firm」です。エージェンシーでもクリエイティブブティックでもコンサルでもない。映像、デジタルなど具体的なアプトプットにはこだわっておらず、最近特に重視しているのは考え方のアプローチです。
クリエイティビティを持ってビジネスにアプローチし、新しい価値を見つけて形にしていく。それによって企業の新しいオポチュニティを見つけ、デザインとデータ、テクノロジーを組み合わせることで、従来の枠組みを超えた新たなビジネスの創出やカスタマー・エクスペリエンス(CX)構築を目指しています。2017年にユニクロで立ち上げたAIを活用した自動カスタマーサービスシステム「UNIQLO IQ」は、まさにこうしたアプローチから生まれたものです。
この3年の間に、クライアントの課題の変化に伴って、僕らの立ち位置も変わってきました。その中で最近感じているのは、クリエイティブとクリエイティビティ、同じような言葉ですが、ここ数年、それぞれの言葉が持つ意味や位置づけが大きく変わってきているということ。とても微妙なニュアンスなのですが、以前に比べてクリエイティブとクリエイティビティの境目が明確になり、それぞれの意味を多くの企業が意識するようになったと思います。
まず「クリエイティブ」ですが、これは世の中にアウトプットされたものを指します。いま、その金銭的価値が下がり続けているのが事実です。というのも、もはや映像のプロや制作会社に依頼しなくても、手元にあるiPhoneで誰でも映像をつくることができる。世の中で全般的に「クリエイティブ」に対価を払うという意識が薄くなっていて、あらゆるものの製造コストや制作コストがどんどん安くなっている。これはもう避けられない事実です。極端な言い方をすると、今までの「クリエイティブ」は終焉を迎えているかも知れません。
一方、そういう時代になったことで、ビジネスにおける「クリエイティビティ」はますます求められるようになったと感じています。なぜなら多様な競争相手がいる中で飛び抜けた存在になるためには、企業はこれまで以上にクリエイティビティをあらゆる面で発揮させていく必要があるからです。ここで言う「クリエイティビティ」とは考え方のアプローチで、クライアントから僕らが望まれているのは、今まさに「クリエイティビティ」と「ビジネス」をどう繋ぐかということだと感じています。
その流れの中で、僕らのスタンスは「つくる」ことよりも、より「見つける」ことを重視するようになりました。例えばUberやAirbnbも10年程で数兆円のビジネスになっていますが、それまでは存在しないものでしたが、それらのファウンダーたちは、クリエイティビティを活かし、新しいビジネスの機会を見つけたからです。我々の仕事は、企業と向かい合い、新しい課題を見つけ、可能性を見い出し、今後のビジネスの機会を見つけていく。そしてデザイン、データ、テクノロジーを活用し、可視化し形にしていく。それが我々の得意とする事だと思っています …