種のないスイカ、芯が抜かれた鉛筆、黒鍵のないピアノの鍵盤…。これらに共通しているのは、「黒い部分が抜けている」こと。人物も毛も描かずに、こうしたビジュアルで脱毛を表現したのは、ラナデザインアソシエイツだ。
見た人が共感できる広告
今回制作を手掛けたデザインファーム ラナデザインアソシエイツは、もともとWebの黎明期にWebを主軸としたデザイン会社として立ち上がった。現在は仕事の幅が広がり、ロゴやイラストの制作、企業のブランディングなども手がけている。
今回の制作にあたっては、脱毛について学ぶことから始まったという。Webサイトや競合の広告を調べるのはもちろんのこと、脱毛の経験や脱毛広告に対する印象などを聞く社内アンケート調査や、脱毛クリニックやサロンでの脱毛経験のある社員を集めた座談会を実施。そこから「足を運ぶハードルが高い」「女性と男性で脱毛に対する印象が異なる」といった課題が浮かび上がってきた。
ヒアリングした結果を検討する中で決まった今回の制作テーマが「身近な脱毛」。アートディレクター/デザイナーの秋山貴典さんは「脱毛の効果をわかりやすく伝えることはもちろんですが、センシティブな話題で、公に語られることの少ない脱毛をより身近なものとして感じてもらえるような表現を目指しました」と話す。
脱毛クリニックを身近に感じられる新しい切り口
このような過程を経て、制作されたのが、スイカの種、ピアノの黒鍵、鉛筆の芯など、黒い部分を抜いたビジュアル。「アイデアを考える際には、いつもテーマとなるキーワードを言い換えてイメージを広げています。脱毛を別の言葉にすると、黒いものを抜くこと。それを、毛以外の黒いものに置き換えてみると、どうなるだろうと考えました」と秋山さんは話す。
モチーフは脱毛クリニックを身近に感じてもらうためにも、日常生活で目にするもの。黒い部分を「剥がす」「染める」ではなく、抜くという表現になるもの、黒い部分を抜いた時に違和感のあるものにこだわった。コピーは「黒いもの、キレイに抜きます」と、シンプルなものにし、グラフィックとコピーが補完し合うことで、それぞれがより際立つバランスを意識した。
今回の企画を振り返って、新しい切り口の脱毛広告を制作できたとアートディレクター/デザイナーの麻生英里さんは話す。「『脱毛を身近なもので表すとこうなるよね』という、女性に限らず誰もが共感できるフラットな表現になったと思います」。
本広告は東京メトロ全線のまど上枠に掲出される。「交通広告は多くの人の目にとまるパブリックなもの。広告を見た人が面白いと感じ、身の回りのものから黒い部分を抜いてみたらどうなるだろうと想像してもらえればうれしいです」と秋山さんは話してくれた。
- 企画制作/ラナデザインアソシエイツ
- AD/秋山貴典
- D/麻生英里、高野佑里
- C/楠瀬薫子(ウミベプランニング)
- PM/千葉憲一