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コンセプトを体験する新しい空間

ラグビーの魅力を科学的に伝える展示空間

三菱地所「ラグビーアート展」

「ラグビーワールドカップ2019日本大会」に協賛する三菱地所は、ラグビーのプレーの裏側に込められた緻密な戦略や戦術をアートを通じて体感する展示を、昨年9月に丸の内で実施した。ラグビーへの興味の入り口を、これまでにない形で作り上げる試みとなった。

丸ビルで行われた「ラグビーアート展」。透明ポスターを使ったアート作品のほか、東京藝術大学の学生とOBによる絵画も展示された。空間の白場を十分確保し、展示作品を楽しむアート空間として成立させることを心がけた。

戦略スポーツとしての魅力にフォーカス

今年9月に開幕する「ラグビーワールドカップ2019日本大会」。本大会のオフィシャルスポンサーである三菱地所グループは、開催1年前となる昨年9月に、東京・丸の内の丸ビル1階ホール(マルキューブ)全体を美術館に見立てた「ラグビーアート展」を開催した。目玉は、240枚の透明ポスターを約12メートルにわたり連続的に展示する空間アートだ。

ここで表現されているのは、2015年のラグビーワールドカップで「ジャイアントキリング」(番狂わせ)と称された、日本対南アフリカ戦ラスト4分間の大逆転の攻防だ。この4分間にフォーカスし、選手たちの走行データやパスの軌跡、選手の密度などを緻密に分析し、1秒単位で計240枚のポスターで表現している。1枚のポスターには、その瞬間の選手の動きが記号と矢印(戦略図)で表現され、その横には、状況や選手たちの心情を解説するコピーが添えられている。

このラグビーアート展は、ラグビーの魅力を広く発信し、ワールドカップを盛り上げる「丸の内15丁目プロジェクト」の一環として実施された。プロジェクトの開発を担ったのは電通のチームで、クリエイティブディレクターの鈴木瑛さんは次のように説明する。

「ラグビーは国際的には人気のスポーツですが、日本では野球やサッカーほど熱は高くありません。時に"スポ根"的に見られ、あまりポジティブに捉えられていない側面もあります。そんな中で、『ラグビーワールドカップが日本に来ます』と言っても興味を持たれづらいという課題がありました。そこで、開催1年前から徐々にラグビーの輪を広げ、ラグビーを親しみやすいものにし、ラグビーが好きな人たちを世の中に増やしていきたいと相談をいただいたんです」。

なお、「15丁目」プロジェクトの「15」は、ラグビーチームの編成が15人であることから名づけられている(本来丸の内には3丁目までしかない)。Web上のバーチャルタウン「丸の内15丁目」で情報発信を行いながら、丸の内を拠点にさまざまなリアルイベントを行い、プロジェクトの趣旨に賛同する企業や丸の内エリアの飲食店、ラグビー好きの個人や著名人がその活動をサポートし、盛り上げていく。それがプロジェクトの全体像で、そのキックオフとも言える位置づけとなったのが、このラグビーアート展だ。

「プロジェクトの方向性を考えるにあたって、我々自身がラグビーの概念から徹底的に学んでいきました。その結果浮かび上がったのが、"ラグビーは戦略スポーツである"という定義でした」(鈴木さん)。同じく"戦略スポーツ"と称されるアメフトでは、クオーターバックがチームの軍師として采配するが、ラグビーは選手1人1人が自律的に考え臨機応変にプレーを決定していくスポーツであり、ここにドラマがある。

そこで、「ラグビーのインテリジェンスな魅力を追求する」という方向性を掲げた。ここから、アート展、ビジネススクール、映画製作などラグビーと異質なカルチャーを掛け合わせ、話題性を広げる各種の施策が生まれていった。

1秒ごとの経過を透明なポスターを並べて表現することで、選手の位置や軌跡、密度が3次元的につながって見える仕掛けになっている。

ラグビー×アートを体現する空間づくり

アート展の展示内容を考えるにあたり、前回の対南アフリカ戦の"伝説のラスト4分間"を使いたいという話は最初から出ており、サーチライトを活用した案やプロジェクトマッピングで戦術図を見せる案など、さまざまな表現方法が検討された。だが、都心の丸の内という場所柄、音や光を使った案は制約が多く実現に至らなかった。試行錯誤を経て生まれたのが、240枚のポスターを重ねて表現する現在の形だ。

そのクリエイティブ開発について、Dentsu Lab Tokyo アートディレクターの小柳祐介さんは次のように話す。「240秒といっても、ラグビーはスクラムをガッシリと組んでから、最後のところで突然パッと動き出すんですね。そのプロセスを選手個々人にフォーカスしてたぐりよせると、観客の目には一本の線にも見えます。また、空間全体を正面から見通せたほうがいいと考え、透明な素材で表現しました」。

透明な素材を使うことで、ピッチ全体の中での選手の位置や軌跡、密度が3次元的につながって見えるようになっている。見せ方はアフターエフェクト上の3Dモデルを使い、アングルや並べ方、ポスターの間隔を何度も検証したという。

そして、記号のみで表現されたクールな戦略図に、熱量を注ぎ込んだのが言葉の力だ。「240枚のポスターの1枚1枚に、選手の心情や現象などをリアルに表現したコピーを組み込みました。テレビの実況では計り知れない選手個人視点のラグビーワールドカップがギュッと凝縮されています。キャッチコピー240本、傑作集です」と電通 コピーライターの礒部建多さんは言う。ジャイアントキリングを起こした4分間の舞台裏を、言葉からもひも解く仕組みである。

2020年のオリンピック・パラリンピックに向け、スポーツとリアルな空間を組み合わせた企画は今後も増えていくはずだ。「オリンピック・パラリンピックは、必ずしもメジャーな競技ばかりではありません。ですが、マイナーなスポーツやルールが難しいスポーツであっても、多くの人が共感できる要素は必ず抽出できます。それが今回学んだことです」と電通 コピーライターの沼田晃佑さんは言う。

今回は、ラグビーという熱いスポーツを、クールに表した戦術図によって、これまでにない形で魅力を表現した。今後もさまざまなスポーツで、その根幹の魅力を伝える新しい手法が探られていきそうだ。

クールな戦略図に熱量を与えるのがコピーの力。テレビ実況や雑誌の記事も参考にしながら、1秒1秒の試合の状況や選手の心情を解説していった。

ポスターを手前に引き出して見られるようにしたことで、1枚1枚じっくりと鑑賞する来場者の姿が見られた。

アート展と並行して、ラグビーとビジネスの関係性を紐解くビジネススクールも開催。戦略図のビジュアルはここでもツールに使われている。

左から、電通 コピーライター 沼田晃佑さん、クリエイティブディレクター 鈴木瑛さん、Dentsu Lab Tokyo アートディレクター 小柳祐介さん、電通 コピーライター 礒部建多さん。

  • 企画制作/電通+Dentsu Lab Tokyo+電通PR+TOW+ショウエイ+たき工房
  • グループCD/伊藤光弘
  • CD/鈴木瑛
  • CD+AD/小柳祐介
  • C/礒部建多、沼田晃佑、油井俊哉
  • AD/大西貴弘
  • TD/村上晋太郎
  • AE/清竜二
  • ジェネラルPR/小国士朗
  • PRプランナー/根本陽平、宮鍋史郎
  • PR/木部喬
  • PM/加藤慧、曽我公則
  • イベントプランナー/若林大
  • プリントPR/山下俊一
  • デザインプロダクションPR/内田晴喜
  • D/熊井志歩、藤岡実咲

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