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コンセプトを体験する新しい空間

「劇場フェンシング」が試合をショーに変える

第71回全日本フェンシング選手権大会

ここ数年、フェンシングの試合の見せ方が大きな変化を遂げている。けん引するのは日本フェンシング協会会長の太田雄貴さんとDentsu Lab Tokyo。昨年末に行われた全日本選手権では、劇場という新しい空間での実施に臨んだ。

2018年12月9日、東京グローブ座で行われた「第71回全日本フェンシング選手権大会個人戦 決勝戦」。写真:竹見脩吾

進化を続けるフェンシングの観戦体験

フェンシングの試合観戦は、東京2020オリンピックに向けて進化を続けている。昨年末に開催された「第71回全日本フェンシング選手権大会」では、会場を従来の体育館から東京グローブ座に移した。コンサートや演劇が行われる舞台上に、選手が競うピストを設置。観客席の向かいにあるビジョンでは、選手の顔や競技中の心拍数などが表示された。さらに、LED演出や拍手の起こった場所や大きさを可視化する仕組みで、会場は観客も一体になって楽しめる、競技を"魅せる空間"に変わっている。

この取り組みについて、日本フェンシング協会会長の太田雄貴さんは「全日本フェンシング選手権は2017年に前年比10倍の集客を記録しました。でも、東京2020オリンピックで会場を熱狂的なファンの方々で埋め尽くすには、チケット単価が上がっても観戦に来てもらう土壌をつくる必要があります。そのために試合を通じて非日常的な感動を提供したいと考え、体育館で試合をするという従来の概念にとらわれずに劇場での開催を検討しました」と話す。

一連のクリエイティブを担当するのは、電通 クリエイティブディレクターの菅野薫さんを中心とするDentsu Lab Tokyoだ。「東京オリンピックの招致活動が行われていた2013年に、当時現役選手だった太田さんから相談され、剣先の動きや選手の身体の動きを可視化するシステム『Fencing Visualized』と、それを紹介する映像をつくりました。それがきっかけで、現在に至るまで5年以上継続的に、太田さんのやりたいことを実現するために、映像制作やデジタルテクノロジーを中心としたクリエイティブの領域でプロジェクトのお手伝いを続けています」。

太田さんは現在、現役を引退し、日本フェンシング協会会長、国際フェンシング連盟副会長として、フェンシング界を代表する立場で変革を推進している。

普段は演劇などが行われる東京グローブ座の舞台上にピストが設けられ、その背後には大型のビジョンが用意された。観客席もLEDによる演出と、劇場ならではの音響で盛り上がりを見せた。写真:竹見脩吾

アスリートとオーディエンスのための空間

当初は菅野さん1人でクリエイティブを担っていたが、招致後には同社コミュニケーション・プランナーの越智一仁さんと、映像ディレクターやデザイナーとしてアウトプットを手がける曽根良介さんが加わり、3人体制を敷いている。その理由について菅野さんは「太田さんは常に『アスリートファースト、オーディエンスファースト』で試合の体験を変えようとしています。その実現には映像やサイト制作など広告的な表現手法も有効だと思い、僕がCDになり、2人に企画と映像の演出やデザインをお願いすることにしたんです」と話す。

2015年末にはフェンシングのルールをわかりやすく解説した動画「MORE ENJOY FENCING」を制作。企画を担当した越智さんは、「フェンシングはまだ競技としてはマイナーで、種目やルールについて知っている人も多くありません。僕も知識のない状態で試合を見たときは、何が起こって、どう判定されたのかわかりませんでした。そこでNHKの放送用に1種目十数秒でわかる動画をつくったんです」と振り返る。この映像は海外からも大きな注目を集め、現在でも試合前に会場で流す競技説明動画として活用されている。

2017年の全日本選手権からはマスクの下に隠れてしまう選手の個性にフォーカスし、曽根さんを中心に選手紹介動画の制作をスタートした。「マスクを被っていると、どういう選手で、どういった思いを持って試合に出ているかわからず、同じマスクをした2人の戦いに見えてしまいます。個人を掘り下げることで、選手に感情移入してもらい、身近に感じてもらおうと考えました。また、きちんと顔が見えることは選手をモチベートすることにも繋がると思います」と曽根さん …

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