特別な体験ができる宿泊施設が増える中、地元のアーティストと連携してホテルづくりに取り組むBnA。なぜ、「アート×ホテル」の組み合わせなのか?BnAのファウンダー 田澤悠さんに話を聞いた。
アーティストの好機を生み出すホテル
ホテルのデザイン・運営、アートプロジェクトのプロデュースを行うBnAは、「泊まれるアート」をコンセプトにした「BnA(Bed and Art)HOTEL」を展開している。各都市で活動するアーティストが客室を作品に仕立て、ホテルではそのアーティストたちと交流もできる。2015年にAirbnb上で実験的にオープンした2つの民泊プロジェクトを皮切りに、翌年には「BnA HOTEL Koenji」、2018年に「BnA STUDIO Akihabara」を開業した。
BnAの面白さは、ホテル経営を目的ではなく手段として利用している点だ。同社の代表を務める田澤悠さんは、「僕らはホテルがやりたかったわけじゃないし、立ち上げメンバーの中にホテル事業をやっていた人間は1人もいません。BnAを始めた目的は、アーティストが買ってもらいやすいアウトプットに絞られることなく、自由な創作活動ができる環境をつくりたいと思ったからです」と話す。
田澤さんは、アメリカネバダ州の砂漠で年に1度行われるイベント「バーニングマン」で、さまざまなアートインスタレーションが設置され、最後は焼却される瞬間に触れ、アートの真価は空間的で刹那的なものにあると感じたという。
ホテルという業態を選んだのは、アートとホテルは相性がいいと考えたからだ。「ホテルには2つの特徴があります。1つは外からオーディエンスを連れて来られることで、これはアートにとって重要です。もう1つは、作家の世界観の中に長時間滞在してもらえることです。情報やメディアがあふれ、人のアテンションを10秒得るのも難しい時代に、ホテルは1日中滞在してもらえます」。これらのホテルの特性に着目した田澤さんと共同代表の福垣慶吾さんは、アートをビジネスに結びつけられるクリエイターとアーティストを引き合わせる空間にする構想を思いついたという。
「お金やネットワークを持ったクリエイターは新たなインスピレーションを求めて世界中を旅しています。彼らと、実験的な活動をしているけど収入を得られていないアーティストを繋げる空間をつくりたかったんです。例えば、クリエイターはアーティストがつくった作品空間に泊まることでインスピレーションを受ける。一方のアーティストはクリエイターに見出されて世界に出ていくチャンスを得たり、宿泊費の一部を還元するレベニューシェアで活動を続けるための安定収入を得られる。BnAのホテルを通して、2つのグループの価値交換が生まれ、化学反応を起こせると思いました」 …