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クリエイティブ温故知新

20代でいかに多くのものに触れるかがその後の仕事を左右する

中島祥文

いつの時代も、人の心を捉え、動かしてきたさまざまなクリエイティブがある。そのアイデアや考え方が、日本のクリエイティブをどのように変えてきたのか。そこから私たちは何を学ぶことができるのか。第4回目は、中島祥文さんに聞きました。

中島祥文(なかしま・しょうぶん)
1944年生まれ。1966年多摩美術大学図案科卒業。スタンダード通信社、デザインオフィスナーク、J・W・トンプソンを経て1981年ウエーブクリエーションを設立。2001年~2011年、多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授・学科長。東京ADC最高賞(一般)、東京ADC会員最高賞ほか受賞。主な仕事に、ウールマーク、J.P.ゴルチェ、トヨタ・ウィンダム、伊勢丹、カネボウ・モルフェ、AGF・マキシム。ロゴデザインと広告展開を担当した仕事として、JR東日本・VIEWカード、サントリー・エルク、AIR DO、渋谷ヒカリエほか。

DDBのベター・ビジョン協会の広告が自分のキャリアに影響を与えた

──広告の仕事に進もうと考えたのは、学生の時と聞きました。

広告関係のさまざまなことを吸収したのは、まさに学生の時、二十歳の頃です。広告の仕事をするうえで必要なこと、例えば文字ですね。最初はスイスグラフィック、特にスイスを代表するグラフィックデザイナーであるミューラー・ブロックマンなどの仕事を見て、刺激を受けていました。卒業制作では英文のAからZまでの書体をデザインして、それを提出しました。当時はタイポグラフィという言葉がまだあまり使われておらず、卒業制作で文字モチーフにする人はいませんでした。文字のデザインは地味な印象もあったからです。ところが、僕はそれも広告の一環と捉えて作りました。

その頃、最も影響を受けたのはアメリカの広告代理店DDBの仕事。「広告とは何だろう」と暗中模索しているときに、DDBの広告を見て、「こういう広告もあるんだ」と思ったことを覚えています。僕がDDBの広告で特に注目したのは、レン・シローイッツというアートディレクターが作っていたベター・ビジョン協会の広告です。

社会性の強い広告だったわけですが、それだけではなく、広告のコピーとビジュアルのバランスの考え方、タイポグラフィなどに興味を持ちました。あるときは文字だけでデザインするなど、非常に変化に富んだキャンペーンをしていたので、「広告はこんなにも自由でいいんだ」と驚きました。そして、その発見が僕のキャリアに後々まで影響を与えることになります。

ほかにも、アメリカのポール・ランドのWestinghouse社のロゴを見たときは、グラフィックデザインというよりも広告との関わりを深く感じました。基本系のフォントを組むことによって、一箇所あるいは二箇所に特徴を加えると、それがその会社だけのロゴになるんですね。

僕が社会に出てからロゴの仕事をするようになったときも、その感覚が残っていて、例えばJR東日本のViewカードのロゴや渋谷ヒカリエのロゴと専用書体を考えたときも、その感覚で大文字の中に小文字を入れたり、小文字に特別なルールを持たせたりして、特徴を付けるようにしました。学生のときに感じたことがプロになってからも役に立ちましたね。

──DDBのベター・ビジョン協会の広告の中でも、中島さんが特に感銘を受けたのは?

このキャンペーンはトータルでは検眼を促す広告なのですが、例えば画面中央に小さく英字が並んでいて、テキストの内容は「この広告を手に、腕いっぱいに離して読んでみてください。ハッキリ読めましたか?読めたとしても安心してしまわないで。(中略)いますぐ、検眼をなさってください。」と書いてあります。字を小さくすることがアイデアになっていて、タイポグラフィの見識の深さがここに表れています。

また、ジョージ・シアリングという盲目のピアニストがベター・ビジョン協会のキャンペーンに共感して、協会宛に書いた手紙が広告に使われました。この広告では、盲目の人が書いたハンドレタリングの文字がそのまま使われています。ここには活字が1つもありませんが、活字がないことの必然性がありますよね。手書きの文字はデザインの効果として使うのが一般的ですが、これはそうではなく、この文字の必然性で広告がつくられています …

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