大学3年生のとき、僕はイラストばかり描いていて、広告やグラフィックデザインにあまり興味がありませんでした。当時はデザインよりアートの力を信じていたので、広告に対してはむしろ斜に構えていました。そんな僕に友だちが紹介してくれたのが、ベネトンの写真家、オリビエーロ・トスカーニの『広告は私たちに微笑みかける死体』という本でした。
タイトルも強烈ですが、本を開くと目次には「知に対する犯罪」として、想像に対する罪、言語に対する罪など、広告の11の罪が挙げられている。広告をつくっている人なのに、当時の広告の現状について痛烈に批判していたことに驚きました。その上で、なぜ広告が社会的な問題や死、さらにはタブーに踏み込んではいけないのかと説き、実際にベネトンで展開した広告について書かれていました。
そのビジュアルは、僕が知っていた広告とは全く別のものでした。白人の赤ちゃんに授乳する黒人の母親、ボスニア紛争で戦死した若い兵士の衣服、エイズで死にそうな息子を見守る家族など、とにかく強烈なビジュアルばかり。いまだったら、即炎上しかねない …