変わったひげ文字が目を引く広告。美しさを表すポジティブな言葉にムダ毛を生やすことで、脱毛のより確実な解決法へと促すアプローチ。
車内で映えるシンプルな企画
ベージュの背景に配された「もち肌」「イケ面」などの言葉。よく見ると、文字に毛が生えていたり、ヒゲが生えてきたように青くなっていたり、せっかくのほめ言葉が毛のせいで残念な見栄えになっている。
このビジュアルを制作したのは、グラフィックを中心にWebや動画など幅広いアウトプットを手がける東京アドデザイナースだ。アートディレクターの久保和仁さんは次のように話す。
「今回は東京メトロの窓上の枠ということでしたが、最近は車内に脱毛サロンの広告が数多く掲出されています。その中で、リゼクリニックの脱毛はプロ(=医師)が施術する『医療脱毛』であることを、優位性を明示してはいけないという薬機法のルールの中でどう伝えるかを考えていきました。いま通勤通学の車内ではほとんどの人がスマホを見ているように思います。そんな中で画面から顔を上げた時に、パッと目に留まり、スッと理解して、クスッと笑ってもらえるものにしようと臨みました」。そのため文字情報を削ぎ落とし、できる限りシンプルで強く印象に残る表現を目指したという。
ひげ文字をヒントに生まれたアイデア
今回は6人でチームを組んで企画出しを行った中で、デザイナーからの案にあった「ひげ文字」がベースになっているという。「太い筆で書いたような書体である『ひげ文字』は終筆部に墨のなごりを表現した2~4本ほどの線(=髭ひげ)があるんです。それをムダ毛のように仕立てた『肌』という一文字が最初のアイデアでした」と久保さんは話す。
ただ、「肌」という字に毛が生えているだけでは脱毛の訴求にならないため、そこから毛があることで悲しくなる、そんな言葉はないかと検討していった。
「『もち肌』や『なま脚』などのポジティブなワードにすることで、成立すると感じました。言葉の意味に合わせて毛の表現も変えていて、『もち肌』であれば数本剃り残しがある状態を表していたり、なま脚であればチクチクと短い毛が生えてきていたり、連動しているんです。この企画をクライアントに提案したところ、男性用のメンズリゼのパターンを作ってほしいと言っていただけて、脱毛ニーズの高い部位から発想して『イケ面』『胸板』という2つの単語に絞っていきました」とコピーライターの五味尚子さんは話す。
加えて、「イケ面」という文字はカタカナで表記されることが多いが、ひげ文字らしさをパッと見で感じられるように、あえて漢字を入れている。
今回の取り組みを振り返って久保さんは、「普段の仕事であればもう少し文字の説明を入れる必要があると思うのですが、ここでは脱毛サロンとの差別化は『ムダ毛はプロへ』というコピーで端的に示しました。シンプルにする分、アイデアでのジャンプが必要で難しさもありましたが、太いアイデアにうまくデザインとコピーをかけ合わせた表現ができました。見た人に少しでも楽しんでもらえればと思います」と語った。
東京アドデザイナースの仕事
- CD/五味尚子
- CD+AD/久保和仁
- AD+D/重竹祥乃
- D/野田智菜実、酒井晶俊
- C/土井麻南美