第一線で活躍する映像クリエイターが集まり設立されたCONNECTIONが、今年10月にスタジオを新設し、本格稼働を始める。現場から映像制作の変革に取り組んでいくという。同社メンバーの中から、ディレクター6名に、その構想を話してもらった。

CONNECTIONのメンバー。渋谷ブリッジの新設中のオフィスにて。
映像制作の構造から変えていく
──CONNECTIONを立ち上げた目的は何でしょうか。
柿本:映像制作を現場からアップデートしていこうという思いでつくった会社です。現在、映像を取り巻く状況は激変していて、ここにいるメンバーのアウトプットも、テレビCMやMVだけではなく、WebムービーやNetflixのような短い尺におさまりきらない映像作品まで多種多様です。子どもの将来の夢にYouTuberが挙がるほど、誰もが動画を簡単に作れる「1億総クリエイター」時代になっています。
でも、ひるがえってプロの映像制作現場を見てみると、その変化について行けてなさすぎる。僕は海外で仕事をすることも多いのですが、比べると日本はガラパゴス化が進んでいると感じます。撮影や編集はもちろん、スタッフの守られ方も、時間の使い方も違う。日本の制作現場にはまだまだたくさんの問題があると感じます。そういった変化の中で、「今動かないとまずい」と強く危機感を持ちました。とはいえ、業界の仕組みを変えるのは、簡単なことではありません。そこで、僕が大好きな映像ディレクターやエディターに声をかけ、同じ志を持った仲間を集めていったんです。
伊東:最初に柿本からこの話を聞いたときは、正直よくわからない部分もありました(笑)。でも、彼の「映像の現場を変えていこう」というパッションに惹かれて、僕もみんなも「一緒にやろう」と思ったんです。
──柿本さんの考える"映像制作の問題"を、もう少し具体的に聞かせてください。
柿本:ディレクターもプロデューサーも制作スタッフは、みんな最善を尽くして日々仕事をしています。ただ、必ずしもやらなくていい作業に時間をとって非効率になっていることもある。例えば、4Kで撮影したものを2Kでアウトプットすることがありますが、最初からそれがわかっていれば2Kで撮影してデータ変換の時間を1日削減することができるかもしれない。そういう作業の無駄が解消されないまま最後まで進んでしまう。その無駄をなくせば、スピードも、お金や時間の使い方も明らかに変わってくるはずです。
僕たちディレクターのような最終的なアウトプットのビジョンを持った人間が、最終ビジョンを作り上げる人間と早い段階で話ができれば、そういう作業の不純物を取り除けるんです。また、ポスプロがないがしろにされている現状も、どうにかしたい。
近年の映像制作において、撮影現場と同様にポスプロの持つ役割は重要です。それにもかかわらず、映像制作の最終工程にあるポスプロには、時間的にも、予算的にもしわ寄せが行きがちです。優秀なエディターがたくさんいるにもかかわらず立場が弱い。だから、CONNECTIONにはディレクターだけでなくエディターも所属して、一緒に上流からものづくりをできる体制を整えようとしているんです。
受動ではなく能動的に仕事ができる環境をつくっていく
田向:CMの仕事では、僕たちディレクターのところに完成した企画が届いて制作を依頼されますが、よく中身を見てみると不自然なところがあったりします。色々な"事情"があったことはわかるのですが、もっと早い段階から参加できていれば、自然な形の事情のよけ方を提案できたのに…と思うことがあります。例えば、僕はもっと企画から参加できる機会を増やしたいと思いますが、それは自分のやりたいことを実現するためではありません。CMではクライアントの商品が売れることが一番重要なので、そのためにも早い段階から呼んでもらうほうがいいと思うからです。
牧野:僕の場合、「牧野さんのあのテイストで企画を提案して通ったので、映像を作ってください」と依頼が来ることが時々あります。でも企画によって適した表現方法は違うので、制作後に修正が発生したり、提案してもお蔵入りになることも…。早い段階から参加できていれば、企画に合った手法を提案できるし、修正の時間をクオリティアップに使えるから嬉しいです。
柿本:ここにいるメンバーは自分からアイデアをつくって発信できる人たちです。そういう人が早めの段階から企画に参加したり、もしくはクライアントに直接提案できるようになれば、僕ら自身も楽しくなると思う。
TAKCOM:この予算でこの企画が実現できるかと検討する段階で、ディレクターが出せるアイデアもあります。今よりもっと風通しをよくすれば解決できることがたくさんあると感じます。最近、香港とNYのクライアントと仕事をしたんですが、どちらもオンラインベースで仕事が進み、日本と比べスピードが圧倒的に速かったです。
柿本:僕は自分の仕事で、エディター、美術、照明も制作関係者すべてが参加したSlackでやり取りしています。すべての議論を全員が見られるので、コミュニケーションの齟齬がなくなってすごくいい。これは一例ですが、CONNECTIONでは受け身ではなく、能動的に仕事ができる環境をつくっていきたいんです。
伊東:そういう意味では、CONNECTIONはフリーランスのディレクターがよりよい働き方、よりよいものづくりができるように変えていくアクションとも言えるかもしれない。他にも今の映像制作の構造にフラストレーションがある人がいれば、一緒に映像制作の構造自体に手を入れていこうというチャレンジです。
コラボレーションはフラットな関係性から生まれる
──企画の上流から進めたことで、いいクリエイティブに繋がった具体例は?
柿本:アンダーアーマーのWeb動画「I Will. Masami Nagasawa」があります。先にアンダーアーマーと長澤まさみさんの間で映像制作の話が進んでいて、「ディレクターを誰にするか」という段階で僕が呼ばれました。つまり、この企画は初期の段階から決裁者(クライアント)と出演者、映像を制作するフィニッシャーの三者だけで始まった企画だったんです。
実は当初は全く違う企画を提案したのですが、予算の関係で別案が必要になり、社長の安田秀一さんとタクシーで移動している時に「長澤さんが日本の銭湯で激しく踊るくらいの方が面白いんじゃないですか」と提案したら、「それ、全然わかんないけど、いいですね」と即決されて(笑)。長澤さんの所属事務所も、ダンスの練習時間をしっかり取れるならと快諾して、臨んでくれた。通常のフローのように間に人が入って伝言ゲームの形になっていたら、「そんなめちゃくちゃな企画、僕の口からは言えません」と実現しなかったかもしれません。
田向:僕の場合はプランナーと一緒に企画を考えるのが好きですね。仕事の中でプランナーと同時に企画出しをすることもありますが、画から企画を考える僕と、広がり方から考えるプランナーと、それぞれ違う視点の企画が出てきます。だから、両者がうまく共同作業をできればいいと思います。
伊東:共同作業、コラボレーションの精神で立場を超えてアイデアを出していきたいですね。CONNECTIONのエディターも、僕らディレクターの指示で動くのではなく、クリエイティブの1人として映像制作に携わっています。エディター、広告会社、クライアント、関わる人皆がそういう気持ちで臨んでくれたら、CONNECTIONらしい仕事ができると思います。

ハーゲンダッツ ジャパン/クリスピーサンド「私のスペシャルスイーツEARTH」篇 テレビCM(演出:伊東玄己)

アンダーアーマー「Will Finds a Way - Masami Nagasawa」Webムービー(演出:柿本ケンサク)

EMGルブリカンツ/Mobil 1「You are the 1.」Webムービー(演出:TAKCOM)

DMM.com「20th 冒険しつづけよう」篇 テレビCM(演出:田向潤)

キリン/世界のKitchenから 麦のカフェ CEBADA「セバダはじめまして」篇 テレビCM(演出:牧野惇)

サントリー 南アルプスPEAKERビターエナジー「自然は、力だ。」篇 テレビCM(演出:丸山健志)

KERASTASE PARIS/マスク オレオ リラックス Webムービー(演出:佐藤有一郎)

SPEEDSTAR RECORDS/斉藤和義「Good Luck Baby」MV(演出:大澤健太郎、KEVIN BAO)
新設スタジオを映像カルチャーの発信拠点に
丸山:僕はCM、MV、映画など、制作する時にジャンルは特別意識していないんです。「この映像作家がつくる作品」と認知されたいと思っています。そんな自分にとっては、柿本さんから聞いたスタジオの構想が魅力的でした。それがCONNECTION参加の決め手になりました。
──スタジオの構想とは何でしょうか?
柿本:9月に東京・渋谷にオープンする「渋谷ブリッジ」に新しいオフィスを構えます。1階がギャラリー、2階がオフィス、3階は7つの映像編集室が入る予定です。ギャラリーでは海外の最先端カルチャーと東京のカルチャーをミックスして発信するなど、特に若い人に向けた映像ラボ的な場所にしたいと考えています。さらに映像スクールの開催も考えています。編集室はミーティングスペースにもなり、アーティストやクライアントなどさまざまな人たちが集まって、議論する場所にしたいと思っています。
伊東:スタジオができたら、大きな願望としては「文化」に携わりたいですね。映像作家としてのアプローチを増やしていきたいし、それを具現化するためにスタジオがあるというイメージです。
丸山:作家として依頼されたい気持ちは自分も強くあります。あとは、ここに集まっっている他のディレクターやエディターが魅力的なので、スタジオで色々な人に相談しながら自分のイメージを形にすることをやってみたい。
伊東:「アイツ、あんなにカッコいい作品作ってるぞ!」とお互いに刺激しあって、化学反応が起きるといいですよね。
柿本:僕たちは映像のジャンルにはこだわらないので、本当に気軽に問い合わせしてほしいと思っています。CONNECTIONのサイトにはチャットボット機能も入れていて、すぐに担当者が返信できるようにもしています。アイデアベースでも企画の上流から入れるものは大歓迎ですし、「この合成には、どのくらいのグリーンバックが必要?」みたいな技術的な質問でも構いません。とにかく間口を広げて、色々な人に声を掛けてもらいたいと思っています。
田向:僕は自治体の仕事などもやってみたいと思っています。普段は広告関係以外の人からはあまり依頼されないですが、気軽に声を掛けてほしいですね。
TAKCOM:まだ映像を作ったことのないような企業の仕事をしてみたいですよね。

世界各地に映像制作のネットワークを広げていく
牧野:僕は海外の仕事を手がけてみたいと思っています。日本のクリエイターに依頼したいクライアントは世界中にいるにもかかわらず、実際にはハードルが高いと聞きました。CONNECTIONのプロデューサーのtimoは幅広い海外ネットワークを持っているので、海外の案件に取り組むチャンスが広がるのではと期待しています。
──海外の企業とのアライアンスも進めていると聞きました。
柿本:日本に来たがっている各国のディレクターと会ってきました。彼らの受け入れ体制を整えているところです。また、海外のクリエイターと共同制作も行っていく予定です。既にオーストラリアのCGチーム「Alt.vfx」「ARC」や、アメリカのクリエイティブエージェンシー「Allday Everyday」とアライアンスを組みました。
ここにいるディレクターたちと同じように、素晴らしいと思う海外の人たちに直接会いに行って話をして。1人では今までできなかった限界値も、こうして集った皆で常に意見を交換しあって、意識や思想をアップデートし続けられているだけで、既に超えられていると感じます。いよいよ新スタジオもできるので、それをアウトプットしたものをエンタメの世界できちんと表現していきたいと思っています。

CONNECTIONの考えるこれからの映像制作
従来の映像制作は単線的な発注→受注のバトン形式で進むが、これからの映像制作は有機的なつながりの中で企画が生まれ、制作が進められていく。CONNECTIONはプレイヤー同士をつなぐハブとなり、時には企画の起点となっていく。
座談会出席メンバー

映像ディレクター
伊東玄己

映像作家/写真家
柿本ケンサク

映像ディレクター
TAKCOM

映像ディレクター
田向潤

映像ディレクター/アートディレクター
牧野惇

映画監督/映像ディレクター
丸山健志
CONNECTION(コネクション)
アーティスト×クリエイター×エージェンシー×ブランドの4つの主役を有機的につなぎ、新しい答えを生み出していくクリエイティブ企業。今年10月に渋谷ブリッジ内に新スタジオをオープン。ディレクター、シネマトグラファー、エディター、VFXアーティストらが所属。海外クリエイターとも連携し、オンラインのやり取りで、圧倒的なスピードでハイクオリティの映像をつくり出していく。
お問い合わせ
CONNECTION
東京都渋谷区東1-29-3 渋谷ブリッジ B-2F
03-5422-8224
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